福祉サービスを考える

SLやまぐち号

先日、骨形成不全症で日常的に電動車椅子の生活をしておられるコラムニストの伊是名夏子さんから発せられた「JRで車椅子で乗車拒否されました」という報道が話題となりました。

伊是名夏子プログ

車いすで無人駅利用→「乗車拒否」 投稿したら、わがままとの批判(朝日新聞デジタル)

コラムニストの伊是名夏子さんが4月4日、電車への乗車拒否にあったことを自身のブログで明かした。伊是名さんは、骨の弱い障害「骨形成不全症」で電動車いすを使用している。

伊是名さんが2021年4月、静岡県熱海市にある来宮神社へ「小田原駅→熱海駅→来宮駅」のルートで行こうとしたところ、小田原駅で駅員から「階段しかないので、ご案内できません。熱海まででいいですか?」と言われたという。

「駅員さん3、4人集めてもらい、階段を持ち上げてください」とのお願いには、「熱海駅はそのような対応はしていません」との回答だったようだ。

ABEMA Prime

 

バリアフリー法が施行され、最近はどこの公共交通機関でも施設でも設備がとてもよくなり、車椅子に乗ったり杖を突いて歩く障害者の方たちにとってとても使いやすいものとなっています。

けれどそれはすべてではなく、今回伊是名さんが利用された来宮駅のような障害を持つ方にはとてもハードルの高い施設も多く、それとどのように関わっていくか、今後どう対処していくのかというのは極めて大切な課題です。

今回の彼女の行動は、現状に対する問題提起という意味で、意図的に(前日より前の)事前連絡をせずに無人駅利用を申し入れ、その顛末をマスコミにも報じたということで、ネットで見る限り彼女の訴えを肯定するもの以上に批判的なものが多く、大きな騒動となっています。

彼女はこの件について自身のブログの「JRの合理的配慮への改善を求める補足」の中で数々の見解を述べていますが、自分にはよく理解することができませんでした。

しかし、その前に一つ申し訳ないと思っているのが、この一件で、悲しみ、不安を抱える人が出てしまったことです。SNSにたくさんの誹謗中傷が書かれ、私以外の人も苦しみ、外出が怖くなったり、まわりの目をより気にしたりする人が増えています。(あえてその言葉をここで書くのは控えます)私の声のあげ方で、傷つき、不安でいっぱいになってしまった方々、本当にすみません。そしてこれから差別的、攻撃的な声に立ち向かうために、繋がっていくことを考えていけたら嬉しいです。

この件に関して、かなり多くのネット記事や書き込みを見ましたが、彼女の意見に批判的なものはあっても、誹謗中傷、差別的、攻撃的と感じられるものはほとんどありませんでした。
もし彼女がそれら意見をそのように感じられたとしたら、それは彼女自身が自分の考え方を絶対善とする偏った見方をしているからではないのかと思います。

このような考え方で問題提起をする限り、たとえ障害者への対応が改善されたとしても、それは圧力団体やクレーマーに「触らぬ神に祟りなし」「臭いものには蓋を」でイヤイヤ接するのと同じことであり、望むべきことではないと考えます。

このようなことを書くのはとても心苦しいのですが、真のバリアフリーな福祉社会を目指すためには、社会的弱者と呼ばれる人たちにも忌憚のない意見を述べることが大切であると考えます。

 

今はどこの観光地に行っても、車椅子の方が大きく不自由を感じることはほとんどありません。
施設の通路や入り口はバリアフリー化され、車椅子で利用できるトイレも完備しています。

それでも車椅子で見知らぬ土地を旅するのは不安なもので、それを解消し、地元広島の観光地に是非足を運んでいただきたいと考え、車椅子の方たちと広島の観光名所を巡る動画をこれまで三本ほどYouTubeにアップしました。

一番上の動画で訪ねた縮景園というのは四季折々の花が楽しめる美しい日本庭園で、ここは美観と自然の景色を保つために奥の方は入り組んだ石畳の通路になっていて車椅子で通ることはできません。
それ以外、中央にある大きな池は手前や真ん中の橋は通ることができ、たくさんいる鯉に餌やりなどをして楽しみました。
縮景園の入場料は障害者と介助者1名は無料です。

それと広島城は昔建てられた当時のままの立地で、入り口手前に石段があり、少し離れたところから眺めることしかできません。
また城の入り口まで行けたとしても、内部は床面積の狭い多層階で急激な階段をいくつも昇らなければなりません。

この二点ぐらいが障害者の方にとってバリアとなる箇所ですが、これを改修するとなると莫大な費用がかかるだけでなく、景観や文化財としての価値を破壊してしまい、望む人はおられないでしょう。

 

車椅子介助をメインとして活動しているほのぼの広島会では、春と秋の年に二回、広島市の福祉バスをお借りして車椅子の方たちとともに日帰りツアーを楽しんでいます。
最近はエセ・コロナ禍とカープの試合を観に行くことが行事に加わり、少し間が開いていますが、車椅子の方たちは普段いろんなところに出かける機会が少ないので、みなさんとても楽しみにしてくださっています。

広島市には、車椅子に乗ったまま電動リフトで乗車できる福祉大型バスが二台あり、事前に予約すれば、運転手付きのバスを無料でお借りすることができます。
つまり交通費は燃料代と有料道路の通行代金だけということです。

これは県北三次のワイナリーに行った時の写真です。
こんな感じでバスの中央部分に電動リフトが付いています。

広島市の福祉バス

バスの中はこんな感じで、座席に移動できる方は介助されながら通常の座席に腰かけます。
その方が楽に長時間座っていられます。

広島市の福祉バス

バスツアーでいつどこに行くかは月一回開かれる例会で話し合って決められます。
日帰りでも高速道路を利用すれば隣県島根にでも行くことができ、それをみんなで決めるのも楽しみのひとつです。

行き先が決まったら、会の有志数名で必ず同じコースの下見に行き、車椅子で移動するのに不自由はないか、食事場所やトイレは整っているかといったことを事前確認します。

また現地でどうしてもそこの施設の方の介助が必要な場合は、そのお願いをし、了解をいだくことにしています。

八年前の島根県津和野町にに行った時は、現地の方に大変お世話になりました。

津和野には少し山を登ったところに太鼓谷稲荷神社という風光明媚な素晴らしいところがあり、そこにお参りするためには、バスを降りた後で何十段かある階段を昇る必要があります。
少々の段差なら会のメンバーの介助者が車椅子を押して行くことができますが、本格的な階段を車椅子を担いで昇っていくのは難しく、神社の若い禰宜(ねぎ)さんたちのお力を借りました。

写真の車椅子の男性Sさんが乗っているのは電動車椅子で、たぶん80キロぐらいはあると思います。
それに加えてSさんもかなり太っておられ、総重量150キロぐらいはあると思います。

太鼓谷稲荷神社

これは車椅子を抱える人たち全員が力のある人でないと不可能です。
神社の方達にはこんな形で全員の車椅子を抱えて何度も往復していただきました。
本当に感謝の言葉しかありません。

太鼓谷稲荷神社

またこの日はJRのSLに乗って数駅間だけのSLの旅も楽しみました。
津和野駅でバスを降りて少しだけSLに乗り、バスは下車駅まで併走してもらうという形です。

JR津和野駅でSL乗車

SLには乗れるだけで楽しいのですが、SLに連結される客車はすべて豪華な雰囲気満点なもので、ちょっと懐かしいレトロ風になっています。
その代りすべての車両の出入り口が狭い片扉形式になっていて、通常の車椅子では入っていくことができません。

そこでJRにお願いしたところ、特別に職員の方四名が介助のために来てくださり、乗車時と下車時に手を貸してくださいました。

SL山口号

本当に大変な思いをして乗り込み、その分普段車椅子に乗っている方にとっては夢の旅のようで、車内で満足そうな表情を浮かべておられたのが強く印象に残っています。

SLやまぐち号 SLやまぐち号

ただこの時にひとつトラブルがありました。
JRの方たちは普段介助をされたことがないので手を貸す時の力加減が分からず、八十代のおばあさんの脇を抱える時に思いっ切り力を加えたため、その後でおばあさんが胸が痛いとさかんに訴えられ、後日のレントゲン検査で肋骨が骨折していたことが分かりました。
それでも会では「これは善意でしたことだから」と、JRにそのことは報告しませんでした。

これがみんなで津和野に行った時の動画です。
よかったらご覧ください。

 

これから日本はかってない高齢化社会を迎え、福祉サービスのあり方はますます重要となってくるでしょう。
その時に、互いに権利を主張しあうのではなく、笑顔で喜びを分かち合えるようにするためにはどうすればいいのか、それを考えていかなければなりません。

伊是名さんが提起した問題が、それをみんなで求め合う一歩になればと思います。