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日本の基底文化

回天乗組員 遺書

12年前、初めて南インドのホーム(児童養護施設)を訪ねた時、子どもたちの明るい笑顔と人なつっこさ、純真な心根に触れ、激しい衝撃を受けました。

その衝撃を抱えたまま日本に帰ってきて、その思いをすぐにレポートにしました。
<南インドで学んだ生きる喜びと幸せ>

あの時以来のべ十回南インドを訪ねましたが、初めての時に抱いた強烈な印象は今もまったく変わることがありません。

インドのヤシの実

 

子どもたちの限りなく純真な笑顔は、彼らの逞しい肉体、それを支える直立した背筋、体幹にあると強く感じます。
それはレポートの中にも書いているように、偉大な教育者であった森信三先生の
『教育の基本は立腰にあり』
という教えとも一致します。

『心身一如』
その人の心の状態と身体の状態は一致します。

腰骨を立て、背筋を伸ばして脳と腸という陰陽の関係である二つの大切な器官の連携をよくするからこそ、心も体もいい状態を保つことができます。

これまで何度もアップしてきたこの図の通りです。

怒りの感情

 

日本人はもともと腹がしっかり据わった深い思考のできる民族でした。
それは日本語という言語に特徴として現れています。

日本語は「あ、い、う、え、お」という母音が強く、世界中の言語の中で最も聞き分けポイントが低音域にある言語です。

人体の中心を通る尾骶骨から頭蓋骨の頭頂に至る骨格は、低い音は下の方の骨格に響き、高い音は頭の方に響くといった具合に、低音から高音まで、人体の中心軸の下から上へと共鳴部分が移動していきます。

人体の共鳴部分

元来農耕民族であった日本人は足腰が強く、下半身に力が充実していたがゆえ低音域が豊かな日本語が生まれました。
その当時の日本人は今のインドの子どもたちと同じくキリッとした表情で背筋も伸びていたことでしょう。

この身体の中心軸を保つことが心身を律する上で極めて大切なことであり、食文化、服飾文化などと同じく身体文化であり、日本を支える基底文化となるものです。

 

今の日本は残念ながらその身体文化が壊れ、表情に生気が失せ、背筋が伸びきらない猫背の人が増えています。

その影響は言葉にも現れ、母音をハッキリと発音できない、語尾が不明瞭といった傾向が、特に若い人たちの間で広がっています。
「あの〜あたしは〜どっちかっていうと〜みたいなかんじ〜」
といった具合です。

さらには語彙も貧弱になり、“かわいい”とか“やばい”のように、ほとんどそれ自体は意味を持たず何にでも使える言葉があふれていて、ネット上では意図的に誤字を用いたりとか、ほとんど日本語崩壊といった状態です。

 

今ここインドで毎日日本語を教えていて、日本語の持つ深い意味合いをあらためて感じています。

山でも川でも木でも、漢字はその意味に基づいて形作られていて、千は音読みで“チ”と読み、漢字とカタカナが同じ形をしています。

時という字の成り立ちは、昔は毎日お寺から決まった時刻に鐘の音が聞こえ、それを時を知る目安にしたからだそうです。

本当に今更ながらですが、日本語の持つ深い意味合いを知るにつけ、その国の言葉、言語文化も身体文化と同じくとても大切な基底文化だと強く感じるようになりました。

 

広島の呉市江田島に、昔は海軍の、今は海上自衛隊の教育機関である術科学校となっている施設があります。
<海上自衛隊 第1術科学校>

江田島 術科学校

そこでは来訪者に館内を案内してくれる見学会があり、自分も二度ほど参加しました。

そのコースの中にある教育参考館という施設には、先の大戦で人間魚雷「回天」に乗り、若い命を花と散らせて英霊となった人たちの手紙が展示されています。

確実に死ぬことが分かって戦地に向かう前に、母親など家族に宛てて書かれた手紙、遺書です。

彼らの年齢は二十歳前かその前後ですが、筆で書かれた文字が実に美しく、また感謝の思いを込めた文面も心がこもった丁寧なもので、激しく心揺さぶられるものがあります。

回天乗組員 遺書

自分はこれを初めて目にした時、あまりにも強い衝撃で長時間見ていることができず、何十人かいた見学者の中で一番最初に教育参考館を出てきてしまいました。

今から75年前のあの当時は、まだ二十歳前後の若者にそれだけ立派な文字と文章が書ける言語文化があったのです。
その言語文化があったからこそ、親御さんたちに対して深い感謝の念を持つことがでる精神的土壌を培えたのでしょう。

 

大切なものの根っこはすべてひとつです。

健全な身体文化があればこそ立派な言語文化が育ちます。

現在の重要テーマであるコロナ禍と対処するためにも身体文化は大切です。
なぜならば日本の健全な身体文化は丈夫な腸から生まれ、その腸は人体の免疫力を司る大切な器官だからです。

免疫を巡る脳と腸の相関関係

これも何度も同じことを書きますが、腸を健やかに保つといった実に身近なところに今のコロナ禍を回避するための大切な知恵があり、こういったところに政府もマスコミも、そして西洋医学の医師や専門家といわれる学者も目を向けるべきです。

 

基底文化が崩壊することは民族の崩壊を意味します。

コロナ禍によってリモートワーク化が進み、対人関係にも新たな文化が生まれてくると言われていますが、今こそより本質的な日本の基底文化を見つめ直す時でありチャンスです。