インドの現状

食糧支援物資

ここインドにいても日本の様子はネットニュースで随時伝わってきて、感染者数、規制や経済の動き、また季節の移り変わりなど、それらを見ながら一喜一憂しています。
けれどそこには実感が伴わず、街の空気感というものが分かりません。

それは当然のことであり、逆に日本人にとって、普段のインドですら「人生観が変わる未知の大国」というイメージなのですから、今のインドの状態を感覚的に理解することは到底不可能だと思います。

 

コロナ禍は人間にとって最も大切な二つの命を奪います。
ひとつは肉体の命であり、もうひとつは経済の命です。

日本は今のところ感染拡大防止と経済の両立が、あくまでも他国との比較の上ですが、うまくいっている方だと思います。
けれど衛生環境が悪く、多数の貧民層を抱えるインドは悲惨な状況で、本来どちらも捨てることのできない二つの命の尊さの間で大きく揺れ動いています。

 

自分がインドに入国したのは2月23日で当時のインドの感染者はわずか3人、検査は簡易型の体温チェックのみでビザも到着した飛行場で取ることができました。

あの頃は世界中への感染拡大が懸念されていたものの、日本でも広島、京都間の新幹線、在来線ともに、マスクをしている人はほとんど見かけませんでした。
けれどさすがに関空は雰囲気が異なり、2月22日の関空はほぼ全員がマスク着用で、身が引き締まる思いでした。

同日、経由地の香港は中国からの影響ですでに68人の感染者が出ていて、白人の旅行者と思われる人たち以外はほとんど全員がマスクをつけています。

尖沙咀 プロムナード

香港の店頭に並ぶ日本製のマスクです。

香港 日本製マスク

 

あの頃から比べると世界は一変してしまいました。
わずか四ヶ月前の出来事ですが、はるか遠い昔のことのように感じられます。

インドでも自分が到着してすぐに空港でのビザ発給の停止、そしてビザそのものの効力停止と急速に進み、完全に日本との交流が断ち切られてしまいました。

その後3月25日にはインド全土に厳しい外出規制のあるロックダウンが施行され、当時の感染者数は386人、再々延長されたロックダウンは5月いっぱいまで続きましたが、現在の感染者数はあの頃の約百倍近くの33万人にも昇り、毎日1万人以上のペースで増加を続けています。

残念ながら長期間のロックダウンが功を奏したとは言えない状況です。
かと言ってロックダウンをしなければ、さらに酷いことになっていたでしょう。

インドの感染者数

この間にインド経済は着実に疲弊し、5月末時点で1億2千万人が職を失い、失業率は26%にも昇ると言われています。

そのしわ寄せの多くは貧民層へと向かい、膨大な数の出稼ぎ労働者たちが交通機関のない中を徒歩で故郷を目指し、世界一と言われる児童労働者の数も今後増えていくものと予想されます。

インドの児童労働

一昨日の日曜日、スレッシュがこの近くのレンガ工場の労働者や村の貧しい家庭に寄付をするという食糧を見せてもらいました。

食糧支援物資

右のきれいな袋に入っているのがお米、左の白い袋には豆や小麦粉、オイルなどの食料品が入っていて、これが15セット用意されていました。

 

貧しさゆえ、よく知られているようにインドの衛生環境は劣悪です。
約四割の家庭は家にトイレがなく、田舎では水も井戸まで汲みにいかなければなりません。

水はこのようにコップを持って水瓶から直接汲み出します。

インドの飲料水

そのコップは写真のように持ち手がないものがほとんどです。
水を飲む時は直接コップに口はつけないものの、前の人がどの部分を持って水を汲んだのか分からず、衛生的には大いに問題です。

他にも野菜を直接床に置いて調理したりとか、潔癖症の方なら絶対に口にできないような食材の扱い方が多々あります。
この魚にたかっているのはすべてハエです。

インドの魚とハエ

ですからインド人は雑菌に対して耐性があり、武漢肺炎のウイルスにも強みが発揮されるのではと思っていたのですが、残念ながらそうではなかったようです。

 

現在インドで感染が酷いのは、首都デリー、ムンバイ、ここタミルナド州の州都チェンナイの3カ所です。
以前タミルナド州はインド全州の五番目ぐらいの感染者数でしたが、チェンナイ近郊のマーケットで大規模なクラスターが発生し、今はムンバイのあるマハラシュトラ州に次ぐ二番目の感染者数となっています。

チェンナイ及びチェンナイ近郊地区の感染拡大は完全に手の付けられない状況になっていて、昨日チェンナイにある日本領事館から注意喚起のメールが届きました。

タミルナドゥ州政府は,タミルナドゥ州の以下の一部地域で,6月19日から30日までの間,これまでよりも厳しいロックダウン措置(トータル・ロックダウン)を実施すると発表しました。

・チェンナイ
・カンチプラム
・ティルヴァルール
・チェンガルペット

トータル・ロックダウン期間中は,食料品等の必需品を扱う商店の営業時間は午前6時から午後2時までに制限されます。
移動制限も課され,必需品等の買い物も自宅から2キロ以内に限定されます。

つきましては、在留邦人・短期滞在者の皆様におかれましては、上記の期間中は外出を可能な限り避けて頂くようお願いいたします。

 

肉体の命と経済の命、今のインドに於いてこれをバランスよく両立させるのは、どんな施政者であっても不可能です。

ひとつ期待が持てるのは、感染拡大によって抗体を持つ人が増え、それでもって感染が自然と収束に向かうのではないかという期待です。
けれどインド政府が11日に発表したところによると、血液抗体検査の結果は1%未満とのことで、ウイルス自然収束の段階までには至っていません。

 

自分が現在いるところは広大な敷地に二家族だけという恵まれた環境で、これまでここで感染の心配をしたことも、マスクを着けたことも一度もありません。

それでも外国人というのは特別な扱いで、ロックダウンの前あたりから、外部の人目につかないよう、来訪者の目から避けるように行動することが求められています。

それで不自由することはまったくありませんが、自由を旨とする自分にとっては精神的苦痛です。

今は日本もほとんどの国からの外国人の受け入れを拒否していますが、以前に入国した、あるいは特別許可で入国した外国人に対し、入国後に日本で差別的扱いを受けることは絶対ありませんが、ここインドでは違います。

外国人は地元警察に所在地を届けなければなりません。
入国後、数日間数十人の子どもたちがいるチェンナイのホームで滞在しましたが、それが知れると子どもたちを含めた全員が病院で二週間隔離されるなどというまったく論理不明なことを言われました。
しかもそれが入国後一ヶ月経っても二ヶ月経っても同じように言われ、四ヶ月近く経った今も、現在の敷地内から一歩も外に出られない生活を続けています。

まるで安部公房の「砂の女」の心境です。

 

これまでデリーやムンバイ、チェンナイから日本に向けての特別機が出るという情報を何度も受けました。
けれどロックダウン中は最寄のチェンナイに行く方法が見つからず、またビザが失効していたこともあり、帰国はずっと諦めていました。

そして6月に入って全土ロックダウンの解除とともに規制は徐々に緩和され、ビザではなく、インドからの出国許可というものを手に入れることができるということを知り、現在知り合いを通してベストの方法を探してもらっているところです。

 

インドは大好きな国ですが、理不尽な論理で外国人に対応する姿勢は納得できません。

チェンナイのホームはかなりの田舎でネットの4G回線がつながりません。
街まで出れば大丈夫ですが、そこに行くためのバイクも自転車もありません。

そこでホームから歩いて外に出て、2キロほど行くと回線速度が速くなるということを発見し、そこにある雑貨屋の店先に座ってネットをしようと思ったのですが、田舎で一人で座ってネットをしていると、スパイの疑いをかけられて警察を呼ばれると言われて諦めました。

 

日本でも桜を見る会、上級国民不逮捕特権、アベノマスク、黒川違法賭麻雀、官僚天下り先への利益誘導のための給付金10億円中抜き問題と、国民を馬鹿にしているとしか思えない政権、官僚の身勝手な行動が大手を振ってまかり通っていますが、インドはインドで警察の暴力やカースト制度などまた別の理不尽さがあります。

あまり自分にとってのインドの嫌な面は書きたくなかったのですが、これもインドの現状であり、けれど抑圧されたカーストや貧民層の人たちの苦労と比べると、まったく取るに足らないものです。

 

インドでは爆発的に拡大する感染者に対応するため、鉄道車両を隔離病棟として利用することになりました。
その他にも宴会場やホテルを利用してベッド数の確保を急いでいますが、インドの感染者は来月半ばには80万人に達することが予測され、残念ながらそれまでに医療崩壊することは火を見るより明らかです。

その窮地を察してか、しばらく小康状態だった中国との国境で、今日は小競り合いがあり、インド、中国両軍に死者が出たというニュースが流れました。

武漢肺炎の混乱に乗じ、世界に覇権を広げようとする中国の動きは尖閣のみならず、すべての面で注意が必要です。

現在クルド人に対する暴力反対ということで、まったく関係のない人たちによる抗議デモを行なわれています。

これに対してクルド文化協会は、ハッキリと自分たちとは関係のない人たちだという声明を発表しています。

 

日本クルド文化協会

最後の
「残念ながら、今回の件に関して、日本のメディアや学術機関、その他組織から、クルド人コミュニティとしての見解について取材がありませんでした・・・」
というのが悲しいですね。

こういった抗議活動は誰が煽動しているのでしょう。
これは「人種差別反対行進」の案内です。

人種差別反対行進

この漢字を見れば、どこの国が率いているか分かりますね。
アメリカ国内のような暴動、略奪行為は日本で絶対に起こさせてはなりません。

 

話があちこち飛んでしまいましたが、今ほど世界が混乱し、明日をも知れぬ時代はかってなかったはずであり、その変革のスピードはこれまでとは桁違いです。

その中で、日本の果たすべき役割は明らかです。
世界の、東洋の時代の盟主として、日本はその任を果たすことが求められています。

「目覚めの時」を書いてから二ヶ月近くが経ちました。
ここで述べたことを、今一度心したいと思います。