「恩送り」
誰かから受けた親切や善意を、それを相手に返すのではなく、他の誰かに渡していくこと。
成田に着き、知り合いが運転する迎えの車が来るまでの間、指定の待機場所で待機しました。
すぐに迎えが来る人は入って右手のソファーで、そうでない時間のかかる人は左手の段ボールベッドのあるところです。
自分は真っ先にそこに入ったので、入り口近くのソファーに荷物を置いて腰掛けました。
しばらくのんびりしていると、小さな男の子を連れたお腹の大きなインド人女性が職員の人と何やら話し込んでおられるのが耳に入りました。
その方の旦那さんが成田まで迎えに来られ、みんなでタクシーで帰るつもりだったようですが、成田から自宅まではタクシーを含め公共交通機関を使うことが禁止されています。
けれどそのことをよく理解しておられなかったようで、職員の方が丁寧に説明されています。
さらには旦那さんは運転免許を持っておられないようで、自力で帰る手段がないようです。
その会話を聞き、頭よりも最初に体が動きました。
その女性に「よかったら一緒の車でここを出ませんか?」と声をかけ、職員の方に確認を取ると「お互いが了解の上ならOKです」と言われたので、すぐに成田に向かっている友人に電話をかけ、車に大きな荷物ともう三人乗れることを確認しました。
車が来るまで約一時間、ただ淡々と時を過ごします。
その間思い出すのはやはりインド出国直前に、出国許可書申請のために懸命の努力してくれたインド人たちや領事館職員の方たちへのご恩です。
今目の前におられる、大きな荷物と大きなお腹で可愛い男の子とソファーに座っておられるその女性を見て、逆の立場で無力だった自分に大きな力を捧げてくれた彼らのご恩が身に染みて感じられ、胸が熱くなります。
一時間ほどして友人が成田に到着し、荷物を載せたカートを押しながら車の方へと向かいました。
その場所までは最終確認のために職員の方も一緒で、そこで外で待っておられたご主人とも合流しました。
彼らはインドで最も感染拡大が進んでいるマハラシュトラ州のムンバイから来たようで、お腹の大きな奥さんと幼い男の子を残し、旦那さんはさぞ心配されていたことでしょう。
ダラヴィというインド最大のスラム街を抱えるマハラシュトラ州の感染者数は断トツで最大で、長く二番目だった自分がいたタミルナド州は首都デリーのあるデリー連邦直轄地と今日の時点で入れ替わっています。
四番目はだいぶ下がってグジャラート州、ここは現インド首相であるモディの出身地です。
三人は神奈川県の海老名市にお住まいです。
今の日本の状況はよく分かりませんが、どこか成田の近くの駅までお送りし、そこから大きなキャリーケースを持った外国人家族が電車に乗るのは危険ではなくても、あまり望ましくないように思われます。
またそれはルールー上禁止されています。
ですので三人を海老名のご自宅までお送りすることにしました。
海老名というと高速道路の大きなサービスエリアが有名です。
その海老名市の出口から下り、彼らの暮らすアパートまで車を走らせました。
最後に彼らと記念撮影です。
ついさっきまで見ず知らずだった彼らを自宅まで送り届けることができ、ホッとしたというか、胸の内の思いが少し満たされたというか、彼らに対して逆にこちらから感謝をしたいようなとても不思議な感覚です。
この二三日前にインド人たちの温かい思いに包まれ、ここ海老名市に別のインド人ファミリーを送り届けるまで、切れることのない大きな流れであったように感じます。
これは感じるだけではなく、きっと本当にそうなのだと信じます。
このたびのインドの旅は日本に着いてもまだ終わっていません。
たぶんこれからもずっと続いていくのでしょう、いろんな人から受けたご恩をまた別のいろんな人に返しながら・・・。
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