新たなる生命の時代 > コラム ~ 生命をいただく ~

コラム ~ 生命をいただく ~

人間の体は日々口にする食べ物によって作られていて、人間の体は「食べ物のお化け」であると言うことができます。
食べ物とは他の生きものの生命です。
肉食動物は草食動物の生命をいただき、草食動物は植物の生命をいただいています。
そして植物は、動物や他の植物が滅して土に還ったその養分を生命の糧としています。

生命とは全体の調和の中から生まれます。
生命あるものをバラバラにし、寄せ集め、カロリー、タンパク質といった栄養素の数字だけを見ているだけでは、真に生命が喜ぶ食べ物とはなりません。

食べる人が暮らすその土地でその時期採れた旬のもの、これを身土不二と呼び、人間と土地と時との調和です。
そして野菜は根っこや皮も、魚は小魚の頭も尻尾も食べるという、生命ある食物全体を食べることを全体食と言い、これが形としての調和であり、生命の恵みをそのままいただくには、これら調和が何よりも大切です。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

長野県上田市の教育委員長だった大塚貢先生は、荒れた中学校を立ち直らせるため、授業内容の見直しとともに、食の改善に取り組まれました。

週6食(当時)のうち2食だった米食を4食、5食と増やし、おかずを肉から魚、野菜中心のものとし、お米には全体食である地元産の発芽玄米を加えました。
その結果、タバコの吸い殻だらけだった校舎から吸い殻がなくなり、学力向上とともに図書室の利用率が飛躍的に向上し、毎年大量にあった図書の紛失もゼロになりました。
子どもたちは感情が制御できるようになり、非行や犯罪を犯す生徒、登校拒否児がほとんどいなくなり、さらには地元産の農薬のかかっていない食材を使うことにより、アトピー、高脂血症、高コレステロールの子どももいなくなりました。

また大塚先生は、凶悪事件を起こした子どものいる学校を全国に訪ねられ、それらの学校の様子を、高級住宅地の中にあってもプランターの花が枯れていて花が一輪も咲いていない、進学校だけれども製薬会社か研究所のような無機質な校舎、グラウンドが草だらけで廃校のような雰囲気、・・・と述べられています。
そしてそれに基づき大塚先生は、
『学校は潤いのある場所でなくてはならない。 子どもたちと花を植え、心の教育をしたい』
と語り、現在教育・食育アドバイザーとしてその活動を進めておられます。

サルビア花壇
上田市立真田中学校のサルビア花壇

 

大塚貢先生
大塚貢先生
『荒れた学校には心癒やすものがありません』

 

いのちをいただく

その絵本の帯に、一人の名もない主婦のメッセージが書かれていた。
「朗読を聞いて、うちのムスメが食事を残さなくなりました」
絵本に「坂本さん」という人が登場する。 実在の人物である。

坂本さんの職場では毎日毎日たくさんの牛が殺され、その肉が市場に卸されている。
牛を殺すとき、牛と目が合う。 そのたびに坂本さんは、「いつかこの仕事をやめよう」
と思っていた。
ある日の夕方、牛を荷台に乗せた一台のトラックがやってきた。
「明日の牛か・・・」と坂本さんは思った。
しかしいつまで経っても荷台から牛が降りてこない。 不思議に思ってのぞいてみると、
10歳ぐらいの女の子が、牛のお腹をさすりながら何かを話しかけている。 その声が聞こえてきた。
「みいちゃん、ごめんねぇ。 みいちゃん、ごめんねぇ・・・」
坂本さんは思った、「見なきゃよかった」
女の子のおじいちゃんが坂本さんに頭を下げた。
「みいちゃんはこの子と一緒に育てました。 だけん、ずっとうちに置いとくつもりでした。
ばってん、みいちゃんば売らんと、お正月が来んとです。 明日はよろしくお願いします・・・」
「もうできん。 もうこの仕事はやめよう」と思った坂本さん、明日の仕事を休むことにした。

家に帰ってから、そのことを小学生の息子のしのぶ君に話した。 しのぶ君はじっと聞いていた。
一緒にお風呂に入ったとき、しのぶ君は父親に言った。
「やっぱりお父さんがしてやってよ。 心の無か人がしたら牛が苦しむけん」
しかし坂本さんは休むと決めていた。
翌日学校に行く前に、しのぶ君はもう一度言った。
「お父さん、今日は行かなんよ!(行かないといけないよ)」
坂本さんの心が揺れた。 そしてしぶしぶと仕事場へと車を走らせた。

牛舎に入った。 坂本さんを見ると、他の牛と同じようにみいちゃんも角を下げて威嚇するポーズをとった。
「みいちゃん、ごめんよう。 みいちゃんが肉にならないとみんなが困るけん。 ごめんよう」
と言うと、みいちゃんは坂本さんに首をこすり付けてきた。
殺すとき、動いて急所をはずすと牛は苦しむ。 坂本さんが「じっとしとけよ、じっとしとけよ」と言うと、
みいちゃんは動かなくなった。
次の瞬間、みいちゃんの目からは大きな涙が落ちた。
牛の涙を坂本さんは初めて見た。

心を込めて「いただきます」「ごちそうさま」を

牛

 

絵本 いのちをいただく みいちゃんがお肉になる日
(講談社の創作絵本)

 

backhomemenunext