■ 二葉中学校でのトイレ掃除
さて、東区役所にも30万円の予算がついたということもあって、さきほど話しました今の安西高校のことも吉田署のことも知っていたので、何とかしたいと思っていた時に、東署の少年課の先川係長さんが来られて、県内一荒れている学校が二葉中学校であると言われました。
広島市東区の行政区域は広島駅周辺です。その広島駅近くの学校が荒れていて、一日三度も警察が補導に行くと言われました。
暴れている子供を連れて帰るなどの補導を毎日、何年もやっていると言います。
「もう、これ以上やれん」と言い、警察としてやるべきことは全部やったと言う。
私とは飲み友達でトイレ掃除に数回一緒に行った仲でしたので、「トイレ掃除をやろうと思うが、東署から声をかける訳にはいかないので、区役所の名前を貸してくれ」と言われました。
「いいですよ、名前を貸しましょう。その代わりやるのは全部あなたがたですよ」と言っておきました。
しかし段々と私のほうに振ってこられるようにました。
これが東区でトイレ掃除に取り組むきっかけです。
二葉中学校がターゲットでしたが、初めからそこに行くわけにはいかないので、他のどこかの中学校で練習を一回しようということになりました。
中学校の校長先生の中で時々トイレ掃除に来ている人がいました。戸坂中学というのが東区にあって、そこの校長に頼んだら「是非やってください」と言われるので、そこに頼みました。
ですがトイレ掃除は「宗教活動」だとか「変な活動」だとか言われて、そこの先生たちには全然相手にしてもらえません。出てこられたのは校長と教頭だけでした。
PTAにも連絡しましたが、会長と副会長だけが付き合いで出てこられましたが、あとは全部ボイコットです。生徒が10人くらい出てくれましたが、学校関係者は全部でこれだけでした。
もう私は意地になっていました。私は各種団体の会合に出ますが、どこでも挨拶を3分ぐらい述べます。それでいろんな会合に出るたびにトイレ掃除の話を必ず挨拶の中に入れました。
それでも「宗教活動ではないか」と言われましたので、「宗教活動ではない。何故トイレ掃除をやるのか」を10分ずつ、いろんな所で話させてもらいました。
それでも出てこないと言いますから、「それなら分かった。だったらあなたたちの会合にも私は出ない。会合は夜なので私も出る義務はない。あなたたちが頼んだ時は私は出るではないか。私が頼んだ時くらいは出てきてくれ」と・・・ もう押し売りですよね。
そうやって、1回目は掃除に学ぶ会と区役所と警察が50人くらい出ました。残り150人くらいがどこから出たかというと、各種団体の会長、副会長などの役員さんなど、東区役所管内全部から出てきてくれました。
「とにかく見てくれ。やらなくてもいいから見てくれ」ということでやりました。
このときは押し売りでしたが、2回日以降は一度も押し売りはしていません。
「とにかく一度だけでも見てくれ」と言ってトイレ掃除をやったら、ロコミでいっぺんに広がりましたから、そういう誤解はまったくなくなりました。
その時に二葉中学校からPTA会長さん以下10人来られていました。
会が終った時に、会長さんたちが「二葉中学校でも是非やってくれ」と言われるので、「分かりました。それでは二回日は二葉中学校でやりましょう」と決めました。それが始まるまでの経緯です。
その二葉中の話に戻りますと、まず校長の所に行ったら、本人はやる気だが、職員会議でOKを得る自信がないと言われました。いろんな話をしてもまだあまりのる気になられない。
そこで最後に一緒に行っていた東署の係長さんが、「あなたたちの都合のいい時にだけ、生徒に殴られた時にだけ処置に困り、お巡りさん助けてと呼んでおいて、本格的に取り組みましょうと提案したら『知らん』というのでは困ります」と、そんな風に説得されました。
それで校長は「分かった、職員会議にかけてみましょう」ということになりました。
それで職員会議にかけてもらいましたが、それはもう全然話になりません。先生方は「一切やらない」と言われました。
そこで私は「職員会議で10分ほど時間をくれないか」と言って、職員会議に出ました。
「何故トイレ掃除をやるべきか」と、とうとうと格調高い話をやりました。しかし先生方はふんぞり返って、足は前に投げ出していました。私は「くそ!」と思いながら話をしました。
それで私の話が終って、PTAの会長さん(45歳くらいのご婦人)が5分ほど話をさせてくださいと言われました。
私は、私があれだけ話してもダメだから効果はないのではないかと思っていたのですが、会長さんは三つのことを話されました。
ひとつは、「この一年間にいろんなことをやったではないですか。何ひとつうまくいかなかったではないですか。何故東署とか東区役所が手伝おうというのに乗らないのですか」と。
二つ目は、「次の日からテストだから、子供を出さないと言われるが、30点、50点の点数なんか上げてもらわなくってもいい。それよりも大人になった時に素晴らしい大人になること、それが教育というものでしょう」と。
三つ目は「自分の学校のトイレ掃除をしてもらう時に、あなたたちはデパートに買物に行ったり、昼寝をしますか。出てきてください」と言われました。
そうすると先ほどまで足を伸ばしてていた先生が、ちゃんと座っていました。
私の格調高い話は何だったのかとも思いましたが(笑い)、最終的にはそれで「やりましょう」ということになって、20人ほど先生が出てきてくださいました。約半分くらいです。
中学校の状態をいいます。第1回目は3月末にやりました。その頃の学校の状況は、まずトイレの中で授業中にサボってタバコを吸っている、廊下をウロウロと遊んでいる、トイレの中にはガムとかパンの袋とかが散らばっているという様子です。授業中にはPTAが2人でペアになってパトロールしています。ようするに先生が言っても全然言うことを聞きません。
授業中のクラスの中はどうかといいますと、先生は黒板に向かって書いていますが、後では5人くらいが立って遊んでいる。窓枠に座っている子はズボンをずらしています。反対側が公民館なので館長さんが「窓枠に座っている子のお尻が見える」などと苦情を言っていました。そういう状況でした。
第1回のトイレ掃除の事前視察で行った時には、大便用トイレの扉が50%は壊されて使えない。男子用も女子用も含めてです。それに落書きが男女用共にぐちゃぐちゃです。一杯いやらしいことが落書きしてあり、女子用のトイレの中にもた<さんありました。
植え込みの中にはビンや缶がたくさん落ちているし、ヘアーヌードの写真も植え込みの中に落ちている。私は拾いながら行ったのでよく覚えています。
正面のところに池があるのですが、鯉と一緒に七足も靴が泳いでいました。
その前に校長先生の所に行った時にも、中学生に出会っても誰も挨拶しない。頭髪を黄色にしたり、赤にしたり、緑にした子供たちがたくさんいます。廊下は土足厳禁ですが、埃まみれです。
私は知らなかったのですが、先日東署の先川係長さんと二葉中に1年ぶりに行ったら、靴箱に靴がちゃんと入っていると言って涙を浮かべているので「こんな靴箱を見てどうして涙を流すのですか、どうしたのか」と聞いたら、昔はもうぐちゃぐちゃだったそうです。
「靴箱に靴が入っていることは素晴らしい」と感動して涙を流していました。そういう状況もあったらしい。校庭などにはたくさんの吸殻が落ちています。それが二葉中学校の当時の状況です。
第一回目は350人集まりました。掃除に学ぶ会が30人。東署と東区役所がそれくらい。
学校関係者は、先生、PTA、生徒が50人くらいです。
あとの250人ぐらいはどこから来られたのかと言いますと、中学校の近所のおじさん、おばさんに、おじいちゃん、おばあちゃんたちです。これは素晴らしいことです。
全部で350人のうち、250人は近所の大人が来ました。そうすると子供たちは「何故、この近所のおじさん、おばさんが来るのか。自分らのトイレを掃除するのに」と、それは彼らにショックです。 トイレ掃除の後に教育長に頼んで「いくらトイレ掃除をしても、壊れたところを修理しないと意味がない」、また大便用トイレの扉が閉まらないこと自体が論外ですから、「すぐ直してくれ」と言って、すぐに直してもらいました。それが1回目でした。
6月に第二回目をやりました。大便用トイレの扉がそれでもまだ三分の一が壊されていた。
しかし落書きはなく、ビンも缶もありません。その時も350人という同じような数で、やはり近所の大人が250人も入ってくれました。
三回目は8月にやりました。夏休み中の全校一斉登校日に、今度は生徒会が「主導権を取らせてくれ」と言いました。もちろん「どうぞ、どうぞ」と言いました。
そうすると生徒が770人出てきますし、地域の人が1,000人出てきて、中学校区全部を掃除しました。その内の150人はトイレにまわりました。その他の1,500人余りは中学校区を30ぐらいのブロックに分けて、それぞれが全部掃除して歩きまわりました。
中学校区を徹底してきれいに掃除しました。
その時は、学校の大便用トイレの扉が1割ほど壊されていました。もちろんすぐに直しました。
とにかく「トイレ掃除を三回やると学校は変わる」ということをイエローハットの鍵山秀三郎さんからお聞きしていたし、本も読んでいましたので、二葉中学校で三回やりました。
そのことは個人でも同じですよ。三回やると人生が変わります。これはもう私の体験からです。
もちろん一回でも良くなります。だが騙されたと思って三回やってみますと、一回、二回では百点になりませんが、回を重ねて三回もやると、人生が素晴らしいものになります。
学校も三回やってみてください。個人も三回やってみてください。
「三回やると変わる」というのは分かっていたので、「ともかく三回は何が何でもやる」と言いながらやりました。
10月には運動会をやりました。29年ぶりの運動会です。
その時はまだ十人ぐらいの生徒がボイコットしていました。サボるようにと生徒を引き抜きに来たり、邪魔しに来ていました。このときは東署と連携を組んでいましたから、私服が10人くらい入っていました。「いよいよ最後の最後には頼むが、そうでなかったら出てくれるな」と頼んでおきました。
770人の生徒に対して大人の観客が千人を超えていました。保護者だけではありません。近所の人やOBの大人がものすごい数でした。中学校の運動会でこのような多くの観客は見たことがありません。観客席は少ししか用意していなかったのであふれていました。
テレビカメラが7台入り、新聞記者などが20人位来てグランドをウロウロと取材していました。
それがその運動会の状況です。だから暴走族のOBなんかも来ていましたが、邪魔しようと思っても邪魔できる状況ではなく、雰囲気でもありませんでした。もしそういうことをやったら、大人の皆で引きずり出していますよ。それがその日の二葉中学校の状況でした。
トイレ掃除を始める前には、現役の暴走族に生徒が30人から40人もいました。
暴走族は中学生と高校生の年齢層で、中学生が一番多いのです。
その構成員の中で一番多かったのが二葉中の生徒でしたが、1年経った時には、二葉中の暴走族はゼロになりました。
卒業式が終った時にPTAの役員から「まともな卒業式ができました」とお礼を言われました。
最初は何のことを言われたのか全然分かりませんでしたが、それまでの卒業式というと、各クラス毎に集まって、このクラスは屋上、このクラスは近所の何々公園、このクラスはどこそこといった具合に全部ばらばらにして卒業証書を渡していたそうです。
クラスでやっても乱入してこられて邪魔されるからできなかった。もちろん講堂などでは論外です。それが講堂で卒業式ができたといって感動して言われました。
そのすぐ後に、入学式が感動的であったと礼に来られました。
「入学式がまともにできました。それまでは講堂でやっていましたが、いつも乱入されてグチャグチャでした」と。
それから3月にもう一度やりました。1年のうちに4回やりました。4回目はもうやらなくってもよいと言ったのですが、今度は校長がすごく熱心になっていて、4回目も是非やりたいということでした。
4回目に行って良かったのは、3回やるとどんなに結果が出るかということが見えたことです。
例えば4回目に行って確認した時はトイレの扉の破損はゼロです。全部まともです。
業務員さんが常駐されているので聞いてみますと、冗談半分に「今ごろは暇でしようがない」と言われました。
それぐらい素晴らしい学校になっている。3回目が終った時、中学生が正門のところに別に先生から並べと言われたわけではないのに、10人も20人も生徒が並んで、「ありがとうございました。ありがとうございました」と、帰る私たちにお礼を言ってくれました。
もちろん4回目の時もそうですが、1年前だったら考えられなかったことです。
■ トイレ掃除の効用は
そうした変化はトイレ掃除だけが要因ではないですよ。
学校の先生方がいろんなことに一生懸命に取り組んでこられて、おそらく80点位までやっておられたのでしょう。百点になったら片栗が固まるようにガラリと変わるのです。
そういう時に、その上乗せとしてトイレ掃除をやったものですからガラッと変わったんですね。
トイレ掃除には学校を変えるのに30点か40点分の効果があります。
だからトイレ掃除をやった上にいろんなことに取り組むと、ガラッと良くなります。
トイレ掃除抜きでやると、いろんなことに取り組んでも、百点まではいかないですね。
トイレ掃除をベースにして、他にもいろいろのことを試みますと、必ず良い結果が見えてきます。
この他にもどういう良い結果があったかを言います。
これは二葉中ではなく他の中学校ですが、3回も補導された子がいます。
これが登下校の時くわえタバコをしながら帰っていました。
この前その中学生に会って「おい、まだタバコを喫いながら登下校しているのか」と聞きますと、「冗談じゃない」と言いました。
朝歩いていたら「おはよう」と言われるので、「おはようございます」と返事をし、もうちょっと歩くと「おはよう」と言われるのでまた返事をします。
近所のおじいさん、おばあさんが次から次から声をかけると言っています。帰りも同じように「お帰り」と言われるから、「ただ今帰りました」と返事をするので、くわえタバコをしている暇がないと言いました(笑い)。
だから学校を一歩出ると、恰好をつけて歩いているのだそうです(笑い)。
いつも近所の大人が100人から200人くらいトイレ掃除に入ります。
1回掃除すると「自分の学校」という気持ちになります。車でもなんでもそうです。自分の所有物しか普通は掃除しないわけですから、学校をやると、自分の子や孫がたとえその学校に行っていなくても、「自分の学校、自分の子ども、自分の孫」という気になりますから、中学生が通ると声をかけるようになります。
二葉中学校は広島駅周辺です。街の真ん中です。田舎なら「おはよう」とか「お帰り」という声がけはありますが、街中でそういう現象が起きています。
学校では知識を教えてくれますが、人間性とか社会人としての教育は、やはり地域の大人がやるものなのですね。
地域の皆さんが次世代を作っています。これは学校と地域とが仲良くなったことのひとつの大きな成果です。
次は小学校ヘトイレ掃除に行った時のことです。
ある家族が子供と両親の4人で来られていました。全部終了した時に、お父さんが私の側にやってこられて、「今日はありがとうございました」と言われるので、「いや、こちらこそありがとうございます」と言いました。
そのお父さんが話されるのに、「この間ディズニーランドに4人で行きました。それも楽しい思い出ですが、今日の4人でのトイレ掃除は素晴しかったです。この子たちが今から苦しいことや、つらいことが大人になるまでに起きるでしょう。このトイレ掃除の体験があったから、子供たちはたくましく生きていけるということが、私には確信できました。今日はいい取り組みをさせてもらいました」と大変な礼を言ってくださいました。
本当に私はすごく嬉しかったです。
そんな大きなことまで考えてしたことではなかったので大変嬉しかったです。
それから東区の小学校の校長の数人が、「今までは地域の老人会なんかには声をかけても手伝ってもらえないし、こちらから声もかけなかった。声をかけても、『何故学校に行かなくてはいけないのか』と言われていたが、この間は『昔の遊び』というのを小学生がやるので、老人会から20人くらい手伝いに来てくれませんかと頼んだら、50人ぐらい来てくれました」と言っていました。
さらに老人会の人たちが、「もし花壇なんかを造作するのだったら、何時でも言ってくれ。何十人でも連れて来るから」と言ってくださったと報告がありました。
ようするに、学校と地域がものすごく仲良くなったのですね。
「トイレ掃除で学校に入ってもらったお陰です。今までは非常にギスギスしていて仲が良くなかったのですが、こうなったことも素晴らしいことです」と校長先生からお礼を言われました。
ですからトイレ掃除をやると、まず当初のねらい通り個人が良くなります。
来た本人が良くなります。
掃除に学ぶ会の人はトイレをきれいにするのが主たる目的ではなくて、自分を磨くこと、自分の修行としてトイレを貸してもらって、滝にうたれて修行することと同じように、自分を成長させようというのが大きな目的です。
それがいつの間にか行った先、行った先が良くなるから学校をメインにやるようになりました。
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