トイレ掃除は心磨き
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■ トイレ掃除は地域を変えた

まず個人が良くなって、その家庭が良くなります。それから学校が良くなる。
ここまでは私も考えていました。だから学校を良くしたいから取り組みました。
私のいる東区にある全部の中学校、小学校を廻ってもらいました。そうすると東区全体が良くなりました。学校が良くなるだけでなく、東区全部が良くなりました。

この東区には5万世帯、12万人の人がいます。それが1年間で劇的に変わりました。
なぜ変わったかといえば、各種団体役員がトイレ掃除に1回以上は来ておられる。
今までもいろいろな活動をされていますがきれい事だけです。
男の人は特に現役の時にもエリートだし、町内会長をやったら目先ばかりで自分では行動しないというタイプが多い。
だがトイレ掃除に来たら、私もその他大勢の中の一員としてやるわけですから、今度は口だけでなく行動が先になりますよね。そうすると各種団体の諸活動が本音で動き出しました。
それが東区全体の動きになりました。
全国あちこちに「思いやりのある、やさしい街」という標語がありますが、これはそうでないからそういう標語を作っているのであって(笑い)、東区はそういう標語通りの街になりました。

こういうことは全然予想していませんでした。
私のねらいは二葉中が県内での評価が最下位だから、下から二、三番目になったら満点だという思いで取り組みはじめたのです。
しかも去年の11月24日に県知事表彰されました。美化活動が評価されてのことです。
1年半前には最下位だったのが、県内で一番になりました。
きっかけは地域の町内会長さんが私に「二葉中をほめてやってください」と言ったことにあります。
「それはいいですよ。しかしそれはまた何故ですか」と聞いたら、「生徒たちが学校の中の掃除だけではなく、最近は学校の外もやりだした」とのこと。「学校の外の道路の反対側をやりだし、うちの町内会の中まできれいにしてくれるのです」と言われました。
「私がいろいろお礼を言うのだが、それより区長が言った方が効果があるから」と言われました。
口でお礼を言っても仕方ないから、表彰状を出しますと区長名で出しました。
それを今度は広島県に、「こういうことに中学生が取り組んでいるのだ」と報告したものですから「県内でこういう素晴らしい活動をしている」と県知事表彰を受けました。

1年半で最下位からトップに上がりました。学校を良くしたいと狙ったことは百点満点です。
「地域が良くなる」とは考えていなかったから、これで百点満点の200点になったわけです。
トイレ掃除は街づくりに役立つことが分かりました。それだけではなく、今市の職員が不祥事で次々と逮捕されていますが、「東区はそんなことはない。トイレ掃除に取り組んでいる東区の職員はそうした不祥事は起こさない」と信頼されています。
もともと地域の区民と区役所には対立のようなものがありました。私が区長になった3年前には、50%ほめられて50%叱られていました。2年前は80%ほめられて、20%叱られていた。
今年度は100%ほめられて、叱られるのはゼロです。

変な苦情があっても、地域の各種団体の役員の人が「そんなことはない」と区役所の味方です。苦情がひとつ来ると、(人手を取るので)十人役か二十人役かが無駄になります。それがゼロですから、本来の仕事をやっておれば良いだけであって、ますますいい方向に動きます。
一番儲けたのは東区役所であるし、そのトップである区長であると思っています。
百点満点で、実際のところ300点ぐらい取っています。

公園のトイレ掃除

■ 「割れた窓」理論と「百匹目の猿」現象

ではそのような効果、結果に対して、最初から自信があったかというと、そうではありませんでした。何をどうやって真似をしたかというと、「割れた窓理論」を使いました。
ニューヨーク市で犯罪を減らすために取り組んだ方法です。
自動車を二台置いておいて、片一方はガラスを割ってヒビを入れたままにしておく。もう一方はきれいなままで一週間放置しておく。するとヒビが入った方の車からは、ハゲタカがきたように全部盗っていかれますが、きれいな方は何ともない。
こういう理論に基づいて、ニューヨーク市は落書きを徹底的に消して、掃除もやって小さな犯罪を徹底的に警察が取り締まりました。
そうしたら殺人事件が三分の一ぐらいになって、それに次ぐ重大犯罪まで減りました。

もうひとつは「百匹目のサル現象」ですが、宮崎県の幸島でサルが海でサツマイモを洗って食べはじめた。
(それをまねるサルが)一定数になると、例えば全体の一割なら一割になると、全島の猿がやりだす。その時に幸島という島だけでなく、高崎山のサルも、東北の山のサルも、アフリカの方のサルも一斉に洗いだしました。
こういう現象がこの地球にはあるわけです。
これは別にサルだけではなくて人間もそうです。飛行機を発明した時も、世界中のあらこちで同時に発明された。電話もそうです。そのように、一定数になるとダーッと世界に広がる。

この二つの理論を知っていました。
東区は12万人ですから、12万人を相手では大変なので「1%がトイレ掃除に来てくれれば何とかなるぞ」と私は勝手に思い込んで、1,200人をターゲットに「1,200人にはとにかく体験してもらいたい」と思って取り組んだのです。

■ 「大きな努力で小さな成果を」

トイレをきれいにすれば学校がよくなることは、いろんな事例を通して知っていたものですから、一生懸命に取り組みました。
それでも最初のうちはあまりうまくいきませんでした。
そんな時に鍵山秀三郎先生とお会いし、愚痴をこぼしたことがあります。
「いくらやってもうまくいかない」と言いました。
そうすると鍵山先生に「大きな努力で小さな成果を」と言っていただきました。
「何をこの人は言っておられるのか。ちょっと間違っているのではないかな」と思いました。
「小さな努力で大きな成果」というのは分かっていましたが、「大きな努力で小さな成果を」と言われ、「その差が徳になりますよ」と言われました。
「ああそうか」と、とても気分が楽になりました。
もうひとつは、「いっぺんに大きく花が咲いたらすぐ散りますよ。小さいものから少しずつ大きくしていく方が良いですよ」と言っていただいたので、気持ちを楽にして続けることができました。

  

■ トイレには神様が住んでいる

それでは「これでどんどん続くかどうか」ということですが、皆さんからも「不安はないのか」と質問されます。私はそんなことは心配していません。
トイレには神様がいます。女性は妊娠すると自分の家のトイレをよく掃除しますよね。
「トイレには神様がいるのでよい子が生まれる」と昔から言われています。
けれどもトイレには神様がいるからうまくいくかいかないかは、私が心配することではなくて、 トイレの神様が心配される事柄です。だから時々神さんに向かって言います。
「トイレの神様しっかりしなさいよ。うまくいかなかったらお前さんの責任だからね」と神様を脅して会場に行きます。
今まで全部うまくいっています。神様のパワーはすごいです(笑い)。

■ トイレ掃除を長く続ける法

さて、なぜ続いているかということですが、楽しいからです。
広島の井辻快調(会長)はすごく明るい人です。
いっぱい駄洒落を言って、トイレ掃除は厳しい修行の場ではなくて、楽しい社交の場のようになっています。やはり多くの人に来てもらっていますので楽しさも必要です。
「広島掃除に学ぶ会」の皆さんがひどく明るく楽しいので、終わった瞬間に快感ホルモンがどっと出て、華やかなパーティーのような気になります。
それは何故かと言いますと、さきに言ったように人生の生きる目的というのは二つあります。
ひとつは人間性、人格を高める。もうひとつは、その能力を世のため人のために使う。
そうしたことをした人には快感ホルモンが出るようになっています。
そのことをトイレ掃除の二時間の間に体験できます。
だから理論的に分かっていようがいまいが、快感ホルモンがドッと出るようになっています。
それだから皆さんが終わった瞬間にすごい感動を受けられます。

もうひとつは、トイレ掃除をやったって誰もほめてくれませんが、世の中で善いことをしてもほめてもらわない方がよいです。ほめてもらったらそこでチャラ(相殺)ですから。
「陰徳を積む」とか「天の蔵に貯金する」という言葉がありますが、「善いことをしてほめてもらわない」、そうすると天の蔵に貯金が出来たということです。ほめてもらえなくってもよいです。

世の中というものは、二人だけは必ず見ている人がいます。
その一人は自分、もう一人は神様。仏様でもいいですが、この二人が見ています。
この二人に理解してもらえれば、あとの人、世間には何も理解してもらえなくってもいいのです。

自分と神様にほめてもらえることをしていたら、自信ができます。
人からほめてもらって自信ができるのではありません。
自分を自分でほめて、「あなた(自分のこと)の今日の行動は素晴しい」と言ったら自信になります。
トイレ掃除を終えて帰る時に、なぜそれだけ爽やかなのかというと、「そういうあなたが素晴しい。自分が素晴しい」と、自分をほめられるからです。
みなさんも是非トイレ掃除を自分で体験してみてください。

■ 「変人」が世の中を変える

ところで、トイレ掃除をしている人はどちらかといえば変人です。
今日この会場にこられた皆さんも変人です。
「変人だ」と言われたら喜ばれたらいいですよ。世の中を変えるのは変人です。
例えば最初に飛行機で空を飛びたいと考えたライト兄弟は変人ですよね。
一般人は空は鳥が飛ぶもので、人間が飛ぶものではないと考えていました。
しかし彼らが飛んだから、今飛行機が飛んでいるわけです。
電話もそうです。顔も見ないで電線を使って相手と話をすると考えるのは、大変な変人扱いですよね。電気もそうだし、電波もそうです。ようするに、次の時代に行くために、変人が必ず現状を変えていきます。
だから変人と言われたら、自分に自信を持ったらいいのです。

常識人で「人間ができている」と言われたら、それは凡人ですよ。
江戸時代のように三百年も同じことが続いている時はそれでいいですが、やはり世の中を良い方向に変えていくんだったら、変人であることを喜んでいいのです。

もうひとつお話ししたいことは、いろいろと非難・中傷を受けることもありますが、それを喜んだらいいということです。
日本で一番非難・中傷を受けている人は誰でしょうか。小泉首相ですね。
一番非難・中傷を受けない人は誰でしょうか。まあホームレスのおじさんですよね。
世の中で影響力のある人ほど非難・中傷を受けます。
だから非難・中傷を受けるようになったということは、「自分の働きはいい」ということです。
だから自信を持って非難・中傷を受けてください。

講演会も来なくっていい人が来られて、講演を聞いてもらいたい人は来ていないですよね。
今頃はデパートの方に行って遊んでおられます。
トイレ掃除をやってもよく言われます。「来なければいけない人は親も来ない。子供も来ない。
いい人ばかり来ている」と言われます。
その人に答えています。「それでいいんです」。

人類は数百万年続いてきています。出来の悪い人が人類を引張ってきたのではない。
出来のいい一部のリーダーとか悟った人が引っ張ってきた。
その他大勢はそれを見ながら真似して生きてきているだけであります。
皆さんが引っ張っていけば、その他大勢は見ていて真似してきます。悪い人を直す必要はない。いい人をますます良くすれば、世の中良くなります。
だからいい人が自分をどんどん高めていってもらうと、世の中のレベルはそれによって上がっていきます。

■ トイレ掃除で「ウン」がつく

トイレ掃除の会場で、小・中学生には「ウンチがつくとウン(運)が良くなりますよ」と言っています。これは事実であります。聖書にも書いてありますが、「良い考え」があって、それを「行動」に移して、それが「習慣」になり、その人がそういう「性格」になっていくと、そのあと「運」が良くなります。

イチロー選手が「運」が良いといわれます。広島駅の近くのパチンコ屋から出てきたアンちゃんが、「わしとイチローは同じ年なのだが、あいつは年収10億円、わしは300万円」と言って、
「あいつは運がいいよなあ」と言っていましたが、「違う、違う。運がいいのではない」と私は言いました。
イチローは子供の頃に「野球選手になりたい」と、「良い考え」を持ったわけです。
それでバッティング・センターに行ってすぐに練習しはじめました。
つまり「良い考え」があって、それを「行動」に移しました。そしてそれを毎日、毎日の「習慣」にしました。それでそういう「性格」になり、そういう「人間」になり、そして今のイチローがあります。
パチンコ屋から出てきたアンちゃんは、恐らくイチローがバッティング・センターでバットを振っていた時に遊んでいた。グランドを走っている時に女を追い掛け回していた。
30年間のビデオを早廻ししてみると分かりますが、なるようになっているだけです。
当たり前のことを当たり前にやったら、当たり前になります。
良いことを一生懸命にやったら、運は良くなります。
悪いことを一生懸命やっても、悪くなりますがね。それが世の中のルールです。

トイレ掃除に参加したら、自信が持てるようになります。特に冬の寒い時のトイレ掃除です。
トイレ掃除は全部素手でやります。こんなつらい仕事は世の中に出てからないです。
世の中で一番つらい仕事を探せといったら、この学ぶ会のトイレ掃除ですよね。
これをやると、その他のことは何でもできる。後は何も大したことはない。だから自信ができます。一番つらいことをやった後の小学生、中学生に「自信もって生きてください」と言い切れます。

■ 本当のボランティアとは

私たちは本当をいうとボランティアをやっているのではなく、ボランティアをやったような気持ちにさせてもらっているだけです。
というのは、 トイレ掃除をやる時、私たちは例えば午前8時にはじめますが、本当のボランティアはその日の午前4時とか5時にはもう準備をはじめておられます。
私などはトイレ掃除に取り掛かって11時、12時には終わりますが、後始末はその日の午後5時ごろまでかかります。

東区役所も200人分の掃除用具を用意しています。やる時には前日から用意に取り掛かり、掃除が終わるとその日のうちに用具などの後始末をします。雑巾はその日のうちに洗濯し乾燥させて、きちんと納めておかないと臭くなりますから、消毒して納めます。夕方までかかります。
このことは一般の参加者には見えないところです。これが本当のボランティアです。
一般のボランティアをさせてもらっても、もちろん人生は良くなりますが、本当のボランティアは準備・後始末です。この点もよく見ておかないといけません。
目に見えないところまで、やはりしっかり心の目で観るということは大切なことです。

この間、 トイレ掃除だけのお陰かどうかは別にしても、こういうことがありました。
東区の区民まつりが11月にありました。区役所の中の駐車場全体を使ってやりました。
朝から午後3時ぐらいまで5万人の人たちが来られました。3時に終って全部しまいます。
私はそこに立って見ながら、あとで掃除をどうやってやるのかなと思っていました。
そのままにしておいたら、次の日に掃除の人が大変なので、職員に散らかったゴミを全部掃除させないといけないな、と考えていました。
しかし会場から用具類を全部撤去した時に、ゴミはひとつも落ちていませんでした。
本当に素晴しいですね。東区民のレベルがとても高いことが分かりますよね。
別に誰一人として、ゴミを拾えとか、きれいにしてくださいとか、仕切っている人はいませんでした。全部を勝手にやってもらって、勝手に片付けてもらったら、ゴミがひとつも落ちていないという素晴しい結果でした。

学校のトイレ掃除

■ 幸せになる法

それでは講演の時間が迫ってきたので最後にもうひとつ、幸せになる方法を紹介します。
日本の団体客がインドの偉いお坊さんの所に法話を聞きに行きました。
そうするとそのインドの偉いお坊さんが「なぜこのインドの山奥まで、あなた達はわざわざ来たのか」と質問されました。
日本の団体旅行客は「私たちは、感動を求めてヨーロッパも行った。アメリカにも、南極までも行つた。このインドの山奥まで、感動を求めて法話を聞きに来ました」と言いました。
するとインドの偉い坊さんは答えました。「日本人の方々よ、感動を求めて世界中をさまようのではなく、感動を与える人になりなさい」と諭されました。

同じような話ですが、ある国の王様が、国民を幸せにしたいがどうしたらよいか、学者を百人集めて命令するわけです。そして1年かけて百冊の本にまとめて報告しました。
ところがその王様は「百冊は読めないので一冊にしてくれ」と言うので、1年かかってまた一冊にしました。その一冊も読むのが大儀なので、「―行にしてくれないか」と命じました。
そこでまた1年かかって一行にしました。
その一行は、「他人を幸せにすれば、あなたが最も幸せになれる」というものでした。

今こうしてトイレ掃除に取り組んでおられる方は、全部自分のためではなくて、世のため人のためにこうしてやっておられます。
しかし一番本当に恵まれるのは、やっている本人であります。
是非とも皆さんも一度体験してみてください。

■ 頑張らないで「顔晴り」ましょう

最後に皆さんに、「頑張らないでください、そして顔晴ってください」と言っておきます。
「頑張る」というのは「頑固」の「頑」、それに「意地を張る」の「張」と書いて「我を張る」という意味です。これはもう、これまで皆さんがいっぱいやってこられました。それは少し休憩してください。私が言う「がんばる」は、「顔面」の「顔」と、天気が「晴れる」と書いて、それで「顔晴る」です。
皆さん、笑顔で顔晴りましょう!

今日はこういう機会を与えてくださって、本当にありがとうございました (拍手)。
(了)


この講述録は、平成17年1月29日に「岩国掃除に学ぶ会」が主催した山口富久広島東区長のご講話を、主催者の方がテープ起こししたものを再編集しました。
文中の写真は、それぞれの文章と直接関係するものではありません。


    

 トイレ掃除は心磨き

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