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再生への道

今日のお話は、少し難しい表現を含んでいるかもしれません。
また思いの根底から書いていますので長文ですが、
とても大切なテーマを含んでいますので、
よかったら最後までお読みいただければ幸いです。


三年前と昨年、二度南インドに行き、
可愛い孤児たちの暮らすホームを訪ねてきました。

孤児たちの輝くような笑顔は生きる喜びにあふれ、
それは本当に心救われるもので、
私は彼らに深く恋をしてしまいました。

インドのホームで暮らす子どもたち

ホームの子どもたちだけではなく、村の子どもたちも、大人も、お年寄りも、
みな生き生きとたくましく日々の暮らしを営んでいて、
私はインドで生きる原点というものを見ることができました。

今インドは世界で最も活力のある国のひとつです。
経済は急激な勢いで成長し、道路も整備され、車やバイクも増え、
労働者のほとんどはケイタイ電話を持っていて、
IT大国として、これから世界を引っ張っていく活力を感じます。

それでも日常の生活の中では昔ながらの「身体文化」というものが生きていて、
炊事、洗濯、掃除、建設現場等での労働、
すべての場においてのインド人たちの身のこなし方は無駄がなく、美しく、
体の中心感覚をしっかりと保ったまま、手足を効率よく使う身の捌きは、
いつまでも見ていて飽きることがありませんでした。

それは子どもたちも同様で、みな背筋が伸び、表情豊かで、
長時間固い床の上に座っていても、
体の力を抜いた状態で、その姿勢を崩すことはほとんどありません。

この力強くしなやかな身体文化こそ、インドの活力の源であり、
インドの文化全体を支える盤石な基盤であると感じました。

日本はこの点を大いに見習わなければなりません。
日本文化の崩壊は、日本人の身体文化の崩壊が、
最も大きな要因であるように思います。


現在のインドの活気は、5〜60年ほど前の、
日本の戦後復興期のものに相当するのではないでしょうか。
たぶんあの頃の日本人は、現在のインド人たちのように目が輝いていて、
表情豊かで、強くしなやかな身体文化を持っていただろうと思います。

素晴らしい身体文化を保ち、活力あるインド人たち、
その彼らの生活の中に快適性、利便性といった文化が
今後急速に広がっていくでしょう。
そしてスイッチやボタンひとつで何でもこなしてくれる生活様式に慣れるにしたがい、
次第に身体文化が失われ、今の日本人のように、
「ものは豊かでも幸せを感じられない」というような人間になってしまう危惧を
強く感じます。

これは国の政策や方針といったレベルを超えた、
ものを中心とした文明の持つカルマ(業)のようなものです。

今のインドは本当に素晴らしいだけに、
昨年インドから帰った直後は、この思いが強烈に胸に残り、
しばらく暗澹たる日々を過しました。


帰国後一ヶ月ほど経った頃でしょうか、
知り合いが一冊のインドについて書かれた本を紹介してくれました。
ロケット博士として有名な故糸川英夫博士の書いた
「第三の道―インドと日本とエントロピー」という本です。

82年に出版され、現在は絶版となっている古い本ですが、
インドとの関わりを通し、科学者らしい実に深く冷徹な目で、
現代文明の課題をとらえた素晴らしい哲学書であり文明の書です。
この本に深く心打たれた私は、新本はないので、すぐに古本を購入しました。

ここに書かれているエントロピーを軸とする文明論に、
私は強い衝撃を受けました。
エントロピーとは、熱力学における概念のひとつです。


熱力学の第一法則は、エネルギー保存(不滅)の法則と呼ばれ、
ある閉じた範囲内(世界)では、エネルギーと物質は、
相互に形を変えたり、変貌しても、その絶対量は一定であるということです。
  <エネルギー保存の法則 - Wikipedia>

これは、私たちが地上にある酸素や石油、自然にあるすべてのもの、
そういったものをいくら消費しようとも、
その後で生成される物質やエネルギーの総和は、
消費する前と変わらないということを意味します。

これは作用、反作用、
起した運動に対しては、それと同じだけの運動量の結果が
返ってくるというニュートンの第三法則と同様に、
デカルトやニュートンなどが築いた近代科学や思想の礎となっています。
  <運動の第3法則 - Wikipedia>


それに対して熱力学の第二法則は、
第一法則の唱える「エネルギーと物質の総和が一定である」
という考えの元にありながら、
そのエネルギーや物質の「往き」と「帰り」は、
必ずしも同じではないと説いています。
  <熱力学第二法則 - Wikipedia>

石油を燃やすと、大量の熱と排気ガス、水等様々な物質へと変化します。
この変化する前と後のエネルギー、物質の総和は変わらないものの、
変化した後のガスや熱からは、元のように石油を作り出すことはできません。

きれいなガラスのコップを、粉々に砕いてガラス片にすることは可能ですが、
そのガラス片から元のガラスコップを作ることはできません。
もし作ろうとしたら、新たな大量のエネルギーや物質を消費し、
ガラスコップ以外の余分なものを生み出すという手間をかけなければなりません。

つまり物質やエネルギーとは、どんな状態になってもその総和は一定であるけれど、
変化の方向は、必ずエントロピー(乱雑さ)が増大する方向にしか
向かわないということです。
  <エントロピー - Wikipedia>

エネルギー資源として有用であった石油は、
有用ではないガスや熱へと変わります。

私たちが何か意図的にものを作り出そうとしたならば、
それ以上に大量の資源やエネルギーを消費し、
それらを有用なものから無用なものへと変化させなければならないということです。


熱力学の第二法則、エントロピーの法則とは、
『物質とエネルギーはひとつの方向のみに、
 すなわち使用可能なものから使用不可能なものへ、
 あるいは利用可能なものから利用不可能なものへ、
 あるいはまた、秩序化されたものから無秩序なものへと変化をする』
ということです。

つまりこの宇宙は、誕生した瞬間から絶えず混沌と荒廃の一方向にのみ
変化し続けているということであり、
これは物質とエネルギーとという観点からとらえた物理における基本法則です。


分かりにくいかもしれませんので、さらに例をあげましょう。
コップの中に水を入れ、そこに赤いインクと青いインクをたらします。
最初は赤と青、ふたつの色は分離して見えます。
これが時間が経つと、または棒を入れたてかき混ぜたりすると、
だんだんとふたつの色は混じり合っていきます。
これはどんなに時間をかけても、またはかき混ぜても、
一度混じり合ったふたつの色は、けっして再び分離することはありません。

どんな状態でも、赤と青、ふたつの色の比率は変わりません。
これが熱力学の第一法則です。

けれども色の交じり具合、つまり乱雑さというエントロピーは、
増加をするだけで、減少することは絶対にありません。
これが熱力学の第二法則でありエントロピーの法則です。


私たちの生活の基盤となっている現代文明は、
この熱力学の第一法則のみに着目し、
どんな状態でも物質、エネルギーの総和は変わらないという考えに基づき、
大量の資源やエネルギーを消費する文明を築いてきました。

けれどもその陰でエントロピーという乱雑さは加速度的に増大し、
有用な資源はどんどんと無用なゴミや廃棄物へと変化し続けています。
そしてその結果が資源の枯渇であり、自然破壊です。


私たちのこのエントロピーの法則を無視した、
大量のエネルギーや資源を急速に無秩序化する文明は、
この地球上では成り立たなくなりました。
この文明、生活様式からは、一日も早く脱しなければなりません。

それがエコな暮らしであり、自然と共生した生き方です。
エコな暮らし、自然と共生した生き方とは、
この「エントロピーを増大させない生き方」のことです。


糸川英雄博士はその著書の中で、
『現代文明はエントロピーを加速度的に増大させる』ということとともに、
『エントロピーの法則で計れば、インドは「超先進国」である』と述べています。

この観点からすると、私がインドで感じた素晴らしさとは、
自然と共生し、エントロピーを増大させないその暮らしぶりにあり、
逆に将来に対する不安、文明そのものに感じたカルマとは、
このエントロピーを無制限に増大させようとする動きにあったのだと理解できました。


私たちはエントロピーを増大させることが豊かさであり、
幸せに至る唯一の道だという思想を信じ切っています。
しかしそれはあくまでも幻想に過ぎません。
その事例をふたつ、本から抜粋します。

ひとつの病院を作った場合、治療を受けて病気が治り、生命が助かる人の数と、その病院を作ったために病気になり、死亡する人数との比率がどうなるかを計算した。
実際、病院を作るには、じつに多くの資機材が必要である。
まず、コンクリート。これは石灰岩の山を削るのだから多量の埃が出て病人が発生する。
次に鉄筋コンクリート用の鉄。これも鉄鉱山を掘るために、鉱毒が発生し、ここでも病人が出る。しかも、それを運搬するために、多量のガソリンを消費し、炭素ガスと窒素酸化物が空気を汚す。
病院では、薬を多量に使用する。それには製薬工場が必要である。その工場をつくる。薬を作るには原料が必要である ・・・ こうして、ひとつの病院を作り、運営するのに、実に多くの病毒がまき散らされることになる。
リフキンは、詳細にわたる調査の結果、病院で治療の恩恵を受ける人よりも、病院を建設し、運営していく過程で被害を受ける人の方が多いことを、数字で示して、キッパリと言い切っている。

最近、映画で有名になったブッシュマンはハンター・ギャザラ、つまり、狩猟採集生活をしているけれども、じつは一週間の間に仕事をしている時間は、十二時間から二十時間にすぎない。
今日のサラリーマンがレジャーといって、スポーツ、ゲーム、芸術、あるいはパーティーを開いたりして楽しんでいる時間は、じつは週に四十時間という労働に支えられている。
ブッシュマンの場合は十二時間から二十時間の労働以外は、すべて「レジャー」にささげられているのだから、彼らは先進国の人間より、はるかに優雅な生活をしているといえる。
また、彼らはもっとも健康な種族であって、病気の数は非常に少ない。
それは、医学の発達よりも、パンドラの箱を開けたことによって、つまり、人間が技術というもの、テクノロジーというものを採用することによって、いろいろな副産物、汚染物を流しだす、この汚染物が新しい病気をつくっているという現代の一面を物語っているといえよう。


この事例の中で出てくるリフキンとは、「エントロピーの法則」の著者であり、
糸川博士はこの本に刺激を受け、エントロピーについての考えを述べられています。
リフキンの著書は、少々難解なところもありますが、
事例が多く具体的であり、示唆に富んだ良書です。

 

エントロピーを増大させない生き方こそが、
自然の一造物としての人間本来の生き方であり、
人類が今後自然と共生して地球上で暮らしていくために不可欠な条件です。

私もこのエントロピーのことを学び、
これから始まる新しい時代の価値観を考えていく上での大切な基盤のひとつとして
取り入れていきたいと考えました。

そう考えたのが昨年の夏、けれどもその後、
その「学びたい」という思いがなかなか実現することはありませんでした。
そのひとつの要因が、
エントロピーの法則そのものが、本質的に絶望的な法則だからです。

エントロピーの法則によってこの世界や宇宙は、
無秩序化へと進んで行っています。
これはあくまでも一方向のものであり、
努力によってこの向きを変えることはできません。

私たちがこれまでエントロピーを増大させる生き方をしてきて、
それを反省しなければならないのは事実ですが、
今後エントロピーの増大を抑える暮らしをしたとしても、
それでもって無秩序さが回復されるわけではありません。
あくまでも増加を抑えるということしかできません。

もちろん一時的に自然は豊かになり、
環境汚染も回復の方向には向かうでしょうが、
全体の総和としての無秩序さ、有用性の減少は、食い止めることができないのです。

もし今後我々がエントロピー減少に向けて多大な努力をした場合、
その無秩序さが行き着くところまで行ってしまうのは、
まだ遠い先のことかもしれませんが、
その最終的な絶望感というものに、
超理想主義的な私は、暗い気持ちを抱いてしまいます。

本当に長いスパンでの考え方なのですが、
重篤な病に冒された人が、画期的な治療法がなく、
ただ進行を遅らせる方法を求めるようなものです。


それともうひとつ根本的な疑問があります。
このエントロピーの法則は、物理の世界では絶対的な常識ですが、
これが本当に正しいのかどうかということです。

先のコップの水にインクをたらす話のように、
私たちが身近な目で見て、体で感じる世界では、
この乱雑さは、時間の経過とともに増す一方だということはよく理解できます。

けれどもこの宇宙が誕生した瞬間から乱雑さが増加しているのであれば、
その誕生した瞬間の、今よりも秩序だった状態とはどこから生まれたのか、
また時間の流れとともに乱雑さが増大するのであれば、
私たちの想念が時空を超越した性質を見せるのと同じように、
時間、エントロピーの法則を超越した世界が、
もしかしたらすぐ近くに存在するのではないか、
こんな思いを強く持ってしまいます。

実際に、koro先生こと故神坂新太郎は、
ご自身の実験結果から、作用・反作用の法則と呼ばれるニュートンの第三法則は、
誤りであると指摘されています。
それはその運動の過程において、私たちがまだ明らかにしていない
天然エネルギー(宇宙エネルギーと同義)が関与するからだと指摘しされています。

 

これは私も真実だと思います。
そしてたぶんエントロピーの法則も、
それと逆行するような、つまり何らかの蘇生、秩序さを取り戻す力というものが、
どこか身近に存在するのだろうと感じています。

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2011.3.24 Thurseday  
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