ヨガナンダ 心の時代のパイオニア
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ヨガナンダ



悩み苦しみ

少し前、ある方から
「ヨガナンダさんも悩みとかがあるんですか?」
という質問をいただきました。

私はそういう世界から超越した人間に見えるのでしょうか。
それはそれでありがたいことですが、
残念ながら私は単なる凡人で、心の中は煩悩と葛藤が渦を巻き、
日々悩み苦しみながら救いの道を求めて生きています。


ある高名なヨガ行者と脳を研究する学者さんが対談の中で、
悩みは一瞬で解決できる、悩まなければいい、
というようなことを語っていました。
これはたぶん言葉の解釈の問題かもしれませんが、
私はこれには納得しかねます。

悩みがないというのはひとつの理想的な姿でしょうが、
凡人はなかなかその境地には到達できません。
そこまで至った人は、それこそ悟りを開いた人かもしれません。

また、悩みがないと公言し、いつもニコニコしている人でも、
もしかしたら心の奥の苦しみにふたをして、
自分で意識してそれを見ないようにしていたり、
またはその奥の苦しみの存在に気づいてすらいないのかもしれません。

もしそうだとしたら、それは悩みを表面に出している人よりも、
問題は複雑でしょう。


人の生きる目的が何かを学んだり気づいたりすることだとしたならば、
その学び、気づく手段としては、
何かに悩み苦しむことが最も大きな力を発揮します。

楽しいこと、嬉しいこと、喜び、
こういったことも大きな動機付けとなり、
心を変えていくキッカケとなりますが、
最も大きく自己変革をする力を与えるのは、
悩み苦しみ、そしてそこから生じる恐怖や不安です。

人間の体から分泌されるホルモンは、
喜びのホルモン ドーパミンよりも、
怒りや恐怖のホルモン ノルアドネラリン、アドネラリンの方がより強力です。

ものすごく嬉しいことがあると飛び上がって喜びますが、
その時、無意識に2メートルもジャンプしてしまう人はいません。

けれども愛する我が子が目の前で車にひかれそうになった時、
母親はオリンピックの金メダリスト並みの瞬発力で我が子に駆け寄り、
か細い腕で車を持ち上げてしまうという話をよく聞きます。

この火事場の馬鹿力のような尋常ではない能力は、
本来人間誰にでも備わったものですが、
普段から自由に使える状態にしてしまうと、
人間の体が過電流を流し続けて焼き切れた家電製品のようになってしまうので、
特に生命の危険を察知した時にのみ発揮できるよう
脳にプログラミングされているのだと思われます。


自分の人生を振り返ってみると、
過去の苦しかったこと、悩んだことの中から多くのものを掴んできました。
超グータラな私の人生は、もしこれまですべてが順調であったなら、
今現在、もっともっと脳天気な人間になっていたことは間違いありません。

そう考えれば過去の悩み苦しみはすべてが人生の糧であり、福音であり、
それらは自らが望み、得てきたものだと思わざる得ません。


お釈迦様は「一切皆苦」と説かれましたが、
この世の中は、人間の表面意識通りにはいきません。
そこから葛藤や苦しみが生じます。

完璧な生命システムを持ち、本来霊的存在である私たち人間が、
思い通りにならない環境に身を置き、
三次元の肉体というきわめて制約の多い物質に束縛されながら生きるのは、
不自由さの中から葛藤、苦しみを体験し、
そしてそこから解脱することを自ら求めているのだと解釈するのが
最も妥当のように思えます。

「ソ・ソ・ソクラテスもプラトンも、み〜んな悩んで大きくなった♪」
という歌がありました。
「涙は心の汗だ〜、しっかり流してみようよ〜♪」
なんて歌もありましたね。


悩み苦しみは最終的にはなくしてしまうのが理想でしょうが、
そこに至るまでは、その悩み苦しみをいかに将来の糧とするか、
そのことをまず考えるべきだと思います。

「過去は変えられる」のですから、
悩み苦しみの価値も自分でいかようにも変えることができます。

人生は、いかに悩み苦しみのないような道を歩んできたかということではなく、
その悩み苦しみの中から、真我の求める道を一歩ずつ進んだのかというところに
意味があるのでしょう。


人間は生まれた時は、みな清らかな状態です。
まだ青い水(心)、それが清らかです。

そして少しずつ年を重ねるに従って葛藤を経験し、
悩み苦しみ、何かと戦い、そこから再び新たなる透明な境地を手に入れます。
それが葛藤し争いを経た水、浄なる世界です。

浄なる境地は、清とは明らかに異なります。
葛藤を経験したものでしか表現しえない慈愛に満ちた透明な世界がそこにあります。

その境地から見ると、悩み苦しみも素晴らしきもの、
そして生きることも、さらには死することもまた ・・・ 。



2010.8.1 Sunday  
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