VOCALIST
私は食べ物の好き嫌いと同じく音楽に関してもまったく好き嫌いがなく、
クラッシックからジャズ、ロック、歌謡曲までいい音楽はどの様なジャンルのものでも
好んで耳を傾けています。

そんな中でも特に好きなのが女性ヴォーカル、昔よく聴いた松田聖子から
越路吹雪、リンダ・ロンシュタット、最近ではサラ・ブライトマン、スーザン・オズボーンまで
女性の美しい声にはいつも胸をときめかせています。

もちろん男性ヴォーカルも嫌いなわけではないのですが、
同性の声にはやはり女声ほどの魅力を感じず、
特に男の歌う甘いラブソングはちょっと苦手といった感じでした。

ある時ラジオから流れてきたのが
徳永英明が歌う女性アーティストのバラードの名曲の数々、
アコースティックでシンプルな演奏をバックに切々と歌い上げる彼の歌声に
知らず知らずに心ひかれてしまいました。

VOCALIST (通常盤)
VOCALIST (通常盤)

彼のファンではないので詳しいことは知らなかったのですが、
近年長い闘病生活があったようで久し振りの復活ということです。

たしかに昔の美声とはほど遠いかすれ気味の苦しげな声ですが、
それが何とも言えない味わいを感じさせて耳に心地よく響きグッドです。

全十三曲、どの曲も何度も聴き馴染んだ曲ですが、
彼の歌声でそれぞれの歌に新たな魅力が加わったようで
新鮮な感動とともに、その歌から伝わるメッセージが
これまでよりもより深く心に染みいってきます。

このアルバムを聴いて、初めてその歌詞の意味するところが理解できた曲も
何曲かありました。


二曲目の一青 窈(ひとと よう)のヒット曲「ハナミズキ」、
なんとも切なくて、聴いていてまたまた涙がこぼれました。

何度聴いてもその歌詞が何を意味するのかは理解できないのですが、
その言葉を紡いだ時の心情というものが、
ひとつひとつの単語の間からにじみ出てきています。
  ( この歌詞には「言葉を紡ぐ(つむぐ)」という表現がピッタリだと思います! )
  
デビューしてすぐの頃の一青 窈をテレビで観たことがあるのですが、
最初は床にしゃがみ込んだ状態から歌い始め、
歌が進み感情が高ぶるとともに立ち上がって熱唱する・・・、
その姿に強い衝撃を受けました。

そんな自分の内なる生命力を真っ正面から見つめることができ、
そしてそれをストレートに表現する術を知っている彼女だからこそ
書けた詩なのだと思います。

一見ただ単語を羅列しただけかのようなハナミズキの歌詞から
このような深い感動を味わえるということ、
言葉の持つ偉大な力を感じずにはおりません。

そしてつい最近ネットで調べ、この詩がアメリカの911事件をテーマに
書かれたものだということを知りました。
ハナミズキはアメリカへ桜を贈った返礼として贈られた花であること、
「手をのばす君・・・」は兄と妹を助け、
自らテロの犠牲となった男性の見つかった手首であることも。

音楽に限らず、映画、小説、絵画、・・・芸術の分野において、
最も上質な感動は間接的な感情、感覚にあると思います。
直接的な喜怒哀楽ではなく、儚い(はかない)、切ない、
そして愛おしい(いとおしい)ような・・・。

この徳永英明が淡々と歌うハナミズキには、
この胸を内側から締めつけられ、
いつのまにか知らないうちに涙がこぼれ落ちているような
そんな儚く、切なく、愛おしい思いがあふれています。


ハナミズキとある面で対極にあるのが竹内まりあが歌った「駅」です。
  
雨の降る夕暮れの駅、昔別れた恋人を見つけ、
そして言葉をかけられないまま後ろ姿を見送るまでの感情の移り変わりを
まるで目に見えるかのように表現している歌詞は
本当に見事の一言です。

はじめの驚き、戸惑い、そして感情が少しずつ昇華され、
ラストは言葉にならない思いをワンコーラス ハミングで歌い上げる。
この歌自体がひとつのドラマか映画のようです。


このアルバムの、そして徳永英明の歌の魅力をどの様に表現すればいいのか、
こうして文章にするにあたって随分考えたのですが、
どうしても適切な表現が見あたりません。

このホームページでこれまで何度か聴覚を通して脳の研究をしている
角田忠信先生のことをご紹介してきましたが、
角田先生のご研究によると、
日本人、正確には幼少期日本語を母国語として育ってきた人は、
他の言語を母国語とする人と違い、
鳥や虫の鳴き声、風の音、小川のせせらぎといった自然音を
言葉と同じく左脳で処理をするということです。

日本人の脳―脳の働きと東西の文化
日本人の脳―脳の働きと東西の文化

そしてこの脳の反応というのが、
明らかに鳥や虫の鳴き声だと表面意識で分かった時に選択的に行われるのではなく、
それらを電気的に100分の1秒といったパルス音として聴かせても
正確に耳を通して脳は聞き分けているというのですから、
まさに生理的反応といったものなのです。

音楽の三大構成要素はリズム、メロディー、ハーモニーと言われています。
しかしそれ以前に人の声や楽器の音色といった音自体に
人の心を揺さぶり、感動を呼び起こすような「生理的要素」が
大きく存在するのではないでしょうか。

「大地の歌」で、なぜ発声練習を聴いただけで彼らモンゴルの人たちの
大地に根ざしたたくましい生き方を感じたのか、
「慈愛の調べ」のチェン・ミンの二胡の調べはなぜにあれほどもの悲しく、
そして愛にあふれているのか。

徳永英明の声の中にも私たち聴き手は彼の生き様をはじめ、
様々なメッセージを生理的に感じ取っているのでしょう。

ドリカムの「LOVE LOVE LOVE」という名曲、
出だしの「ねぇ、どうして、すごくすごく好きなこと・・・」、
一小節目の「ねぇ」の部分から歌が始まり、
二小節目の「どうして、・・・」のところから伴奏のアコースティックギターが
歌にかぶさってきます。

この出だしの部分を何度も何度も繰り返し聴きましたが、
徳永英明の「ねぇ」というたった一小節の歌声、というか言葉だけで、
彼独自の歌の世界に引き込まれてしまいます。

やはり音楽以前に彼自身の歌声、言葉に
聴く人の心を引きつける大いなる魅力があるのでしょう。


音楽を通して深い感動とともに、いつもいろんなことを教えてもらえます。
今宵も甘いラブソングに浸りながら心地よい眠りにつけそうです。

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