音は魂を揺さぶる
私は音が好き、音楽が好き、
どちらにも心の底から深く惹かれるものを感じます。

けれどもどちらかというと、
音楽よりも音に対してより強い魅力を抱きます。

それは音のつながりと重なりで表現される音楽の中で、
一瞬の音の響きに秘められた音楽的魅力が、
全体としての音楽の価値を最も大きく左右するように感じ、
そこに意識が向くからです。

本当に素晴しい音楽、演奏は、
音楽としての音の流れ以前に、
出てくる音の響きひとつだけで、聴く者の魂をわしづかみにすることもできるのです。


人間の耳は、たった一瞬その音を聴いただけで、
その音の持つ本質を理解します。

東京医科歯科大学 角田忠信名誉教授の研究によると、
日本語環境で幼少期を過した人間の聴覚は、
他の言語環境で育った人間の聴覚とは異なり、
虫の鳴き声、風鈴、波、風、雨の音といった風情ある自然音を、
言葉と同じく言語脳である左脳で処理します。

これは明らかに何の種類の音か分かるように聴かせた時だけではなく、
その音を録音し、一瞬のパルス音として聴かせても同じ反応をするのです。

我々の持つ聴覚は、
顕在意識で自覚する以上の大きな力を持っています。

日本人の脳―脳の働きと東西の文化日本人の脳―脳の働きと東西の文化
角田 忠信

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世界一の音のスペシャリストであるローゼンクランツの貝崎静雄さんは、
私の知る限り、誰よりも鋭い動物的感覚を持っておられます。

その貝崎さんが、自身の「4倍の価格のスピーカーからRK-AL12-Gen2に英断」
というページの中で、

・・・ 持って来られたCD数枚の中の1枚を取り出し、
聞こえて来たのはアダモの名曲です。

「雪が降る〜♪・・・」魂のこもった声に思わず身震いがしました。
私の身に起こった稀有な現象にビックリしました。
聞いた事ない歌声のあとに、
聞き取れないせりふが続きます。

韓国語かな? とおもいつつ耳を澄ませて聴く内に、
どうやら津軽弁と思しき単語が出て来たので、
やっと分かったのでした。

いや〜驚きました!
上手いなんて言葉は彼女には軽過ぎます。
ありとあらゆるものを超越した深遠な世界です。
津軽が誇るシャンソン歌手、
秋田漣(Ren)さんと教えて頂きました。

と書かれていて、私もYouTubeで秋田漣さんの「雪が降る」を探し、聴いてみました。



いや〜本当にすごいですね。
その情感と説得力は圧倒的です。

これはどう考えても、曲という音楽以前の、
彼女の喉から発せられる声という音そのものに揺るぎない圧倒的重厚さを感じます。

これはまさに彼女の生き様でしょう。
その誤魔化しようのない彼女のこれまでの人生の歩みが音となり、
それが音楽を通してこちらの魂を響かせ、
感動となって湧き上がってくるのだと思われます。

ただ発声法を練習し、音楽的表現力を高めただけでは、
このような歌声を出すことは絶対にできません。

なんで音ってこんなにすごいんだろう、
なんで音ってここまで深い人間の本性をもさらけ出すんだろう、
これは私の求めている永遠のテーマです。


昨日たまたまネットサーフィンをしていて、
三年前、スーザン・ボイルを一躍世界的スターにしたイギリスの
「ブリテンズ・ゴット・タレント」の韓国版のビデオを目にしました。

本当に偶然目にしたものだったのですが、
ここに登場する Sung-bong Choi という22歳の青年の過去の境遇を聞き、
その歌声を耳にして、このビデオの中に出てくる審査員や観客の多くが涙したのと同じく、
涙もろい私もつい落涙してしまいました。



もう何十回もこのビデオを見ましたが、
今も彼の歌声を耳にすると、胸の奥の横隔膜が、
まるで呼吸困難になったかのように軽く痙攣してしまいます。

彼は三歳で孤児院に預けられ、虐待から逃れるために五歳でそこを脱走し、
以降十年間、ホームレスとして階段や公衆トイレで暮らし、
ガムや飲料を売って命を保ってきました。
ある日、ガムを売るために入ったナイトクラブで素晴しい歌声を耳にし、
そこから歌手になることを志し、これまで独学で歌の練習をしてきたとのことです。
  <Sung-bong Choi - YouTube>

『生きるとは喜びに満ちた素晴しいものなんだ ・・・ 』、
どんな大冊の名著を読むよりも、
彼の歌声は私にそのことを強く訴えてくれます。

彼の声の響きに秘められた力は一体何なんでしょうか。
私には、それがこの胸の奥にある魂を大きく揺さぶるということしか分かりません。


音は絶対に嘘をつきません。
これからもその音の世界を探究するとともに、
自らも人の心を揺さぶることのできる音を出したいと思います。

2012.3.20 Tuesday



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