ヒロシマ フクシマ
被爆都市広島で暮らしていると、
平和という言葉が日常語であるかのように頻繁に耳にします。
平和に関するイベントやコンサートもたびたび開かれ、
そこに参加するたびに身の引き締まる思いがします。

今日は広島と福島、ともに地名に “島” のつく街(町)であり、
ともに放射能による被害の受けた街として、
ふたつを音楽を通して結ぶ『ヒロシマ フクシマ』というコンサートが行われました。



演奏に使う楽器はピアノとヴァイオリン、
ピアノは広島の原爆に遭った被爆ピアノ、
ヴァイオリンは東日本大震災の津波によって倒された被災木で作られた
被災ウァイオリンです。


まずは東北盛岡からお越しくださった又川俊三さんが、
津波の映像とともに現在の被災地の現状、
被災木からヴァイオリンに適した木材を選定し、
表を赤松、裏をかえでで作った被災ヴァイオリンについて、
そしてこのヴァイオリンを千人の演奏者の方たちに演奏してもらい、
そこで奏でる音楽から被災地の人たちの思いを伝えたいということを語ってくださいました。

又川俊三さん

ウァイオリンを演奏してくださったのは上野眞樹さんです。

ヴァイオリン 上野眞樹さん

ヴァイオリンという楽器は、
本来ならば作ってから時間をかけて乾燥させ、
また作られてから年数を経るに従って音にも深みを増してくるのですが、
この被災ヴァイオリンは、そういう条件をまったくものともせず、
実に慈愛のある深い音色を醸し出していました。

この音から受ける印象をなんと表現すればいいのでしょうか。
適切な言葉が見つかりません ・・・ 。

又川さんのお話を聴き、被災地に対する思いが高まり、
被災木から作られたヴァイオリンの音を尋常な気持ちで聴くことができません。
自分はカメラスタッフとしてカメラを持って会場内を歩き回っていたのですが、
ステージからヴァイオリンの音が流れている時、
それに耳を傾ける観客の人たちが座っている空間は、
これまで感じたことのない一種異様な静寂感に包まれていました。

ただ音楽を聴いてるのではなく、
音、音楽を通して伝えられる思いを受け止めようとしている、・・・
こうとしか表現できないような、そんな濃密な気に満ちていました。


音や音楽を通して伝えられる感動とは何なのか、
今日はこのことについて深く考えさせられました。

音楽の感動は演奏者が奏でる音、
それを耳で聴き、感じ取ろうとする己の感性、
演奏会全体の場の空気、
そしてその音楽や楽器にまつわる様々な事柄、
そこから発せられる目に見えない何か、
そういったものすべてが融合し、
ひとつのエネルギー体のようなものに結実するのではないかと感じます。

それらの要素ひとつひとつは決して分離して捉えることはできません。
ひとつに合わさってひとつの命であり、それは人間の生命と同じです。

音楽に感動するのではなく、
音楽を通して自分の中の何かの琴線に触れ、
それが魂を揺れ動かす、今日はそういった感覚を持ちました。


原爆に遭った被爆ピアノは広島に何台かありますが、
今日舞台に上がった被爆ピアノは三滝という爆心地から三キロほど離れた
山すその町で被災したピアノです。

そのピアノについて、
そしてピアノの持ち主であり、爆心地近くで被災し、
その日は三滝の自宅に戻ったものの、
翌日急性放射能障害で亡くなった河本明子さん(享年19歳)について、
二口とみゑさんが語ってくださいました。

河本明子さんについて語る二口とみゑさん

とても優等生だった河本明子さん、
当時としては珍しいたくさんのご家族との写真とともに語られる
河本さんの生き様や思いは、胸に深く響きます。

二口さんのお話につづき、、吉野妙さんがそのピアノを演奏してくださいました。

吉野妙さん

ピアノから流れる音に、まだ見ぬ、もう見ることのできない
今は亡き河本明子さんの姿が映し出されているようで、
やはり胸の奥に、通常のコンサートでは感じられない何かが響きます。

これまで広島で被爆ピアノの音は何度も耳にしたことがありますが、
今日ほど深く胸に響いたのは初めてです。


今日の司会はプロのM.Cであるキャロルさんでした。
彼女はハーフ(クオーター?)ですが、
彼女のおじいさんはあの原爆ドーム(旧産業振興館)で働いておられたのだそうです。

司会のキャロルさん

被爆当時のあの頃は、空襲警報が鳴ることがとても多く、
空襲警報が鳴ったら避難しなければならず仕事にならないので、
警報が鳴った時は自宅待機にしようとおじいさんが提案され、
あの日、その最初の自宅待機の時に原爆が落ち、
一命を取り留められたのだそうです。


ピアノとヴァイオリンによる演奏を数曲聴かせていただきました。

吉野妙さん 上野眞樹さん

音楽を通し、作曲者、演奏者、被爆者、被災者、
そして自分自身の思い、すべてが厳かにひとつに溶け合います。
音楽を聴くということは、ただそれを受け止めるということです。


最後はソプラノの工谷明子さんも加わり、
童謡の『ふるさと』、震災を歌った『花は咲く』の二曲を聴かせていただきました。

吉野妙さん 工谷明子さん 上野眞樹さん

小柄な工谷さんの体から朗々たる歌声が響き渡り、
聴いている人の心と体全体を震わせるような力を感じます。

そして楽器だけの演奏とは異なり、
人の声、言葉が加わると伝わってくるメッセージもまた違ってきます。
それは ・・・ やはり言葉では表現できません。

二曲とも何度も聴いたなじみのある曲ですが、
時や場所によってこんなにも聞え方、感じ方が違うのかということに驚きました。
すべてのものが融合してひとつのものが築き上げられます。
今日ここで受け止めた感じ方は、今日ここだけのもの、
生の音楽は一期一会だからこそ楽しく、また価値があるとも言えます。


コンサートの最後は主催者である志民会議広島の折笠廣司代表の挨拶で
静かに幕を閉じました。

志民会議広島 折笠廣司代表

普通これだけの素晴らしいコンサートなら、
最後は拍手が鳴り止まず、アンコールということになるのでしょうが、
今日はまったく雰囲気が異なります。
ただ受け止めた思いを静かに胸にしまい、大切にしておきたい、
そんな穏やで濃密な空気が会場全体を包んでいました。


ヒロシマ、フクシマ、
音楽を通し、ふたつの被爆地、被災地の思いを胸に深く刻み込みました。

    〜 安らかにお眠りください 過ちは繰り返しませぬから 〜


<おまけ>

今日の会場となった観音マリーナホップは、
広島市内中心部から広島港の一番端っこまで行ったところで、
あまり交通の便のいいところではありません。

その代りヨットハーバーがあり、瀬戸内の島並がきれいに見え、
景観は抜群です。



コンサート終了後、スタッフや出演者の皆さんたち二十名ほどで、
楽しい打ち上げをしました。



自分も生ビールをジョッキ5杯ほどいただき、
最高の気分になりました。 (^o^)ノ□:*:・゜'

このページはその状態で書きました。
誤字脱字があった際はお許しください。 m(_ _)m

2013.9.21 Sunday



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