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物乞う仏陀

インドから日本に帰ってきて感じたことのひとつが、
日本には自然がないということです。

海があり山があり、
木が生えていて小鳥がさえずる、
以前はこれが自然だと考えていたのですが、
清濁併せ持つ現実のすべてを飲み込むような
ダイナミックなインド社会を垣間見て、
人間の持つ文明という意図によって生活や身の回りの様々な環境を
快適に向けてすべてコントロールしようとする日本の現代社会は、
いい悪いは別として、きわめて自然から遠い、
自然、生の根源から隔離された管理社会であることを強く感じます。


知り合いから紹介してもらって読んだ「物乞う仏陀」は、
貧しさゆえに生の現実と直面し、
闘わざる得ないアジアの乞食や障害者の現実が、
きわめてリアルに描かれています。
ここまで克明にその現状をルポルタージュしたものは、
他に類を見ないでしょう。

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石井 光太

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カンボジアでは、ポルポトによる大虐殺の行われた中、
障害者が生き延びるために仲間を売り。

ラオスでは、毎年不発弾による数百人の死傷者を出しながらもそこに暮らし、
その不発弾処理によって生計を立てている村があり。

ミャンマーの村では、
ハンセン病患者たちが人目のつかない山奥に隠れるように
身を寄せて暮らしている。

そしてインドでは、誘拐してきた赤ん坊を乞食にレンタルし、
五歳になると物乞いをさせるために眼をつぶしたり手足を切断する、
そんなマフィアの組織が存在し、
そのマフィアの一員もまた、自身がストリートチルドレンであった・・・。


生とは本来おどろおどろしいものであり、
汗やほこりの入り交じったすえた臭いのするものです。
それが生であり現実のリアルな姿であり、
それに直面せず、日々安逸に暮らせる社会は快適ではありますが、
それはシロアリが家の土台を徐々に蝕んでいくように、
人間の動物としての逞しい生命力を確実に失わせていく危険性を感じます。

自然からほど遠い暮らしをする日本からは、
生の現実の姿はなかなか見ることができません。

だから悲惨な貧困による苦難を抱えたこれらアジアの国々が
いいと言うのではもちろんありません。
生の価値観は善悪の概念を超越します。


仮想的に豊かな日本の現実も、
貧困にあえぐアジアの国々の現実も、
どちらも容易に変えていくことはできません。

ただできるのは、マスコミや観光案内では知ることのできない、
また自らその国に行っても見ることのできない最も悲惨な現実を、
著者石井光太氏の渾身のルポを読むことによって知り、
自分に何かを問いかけることだけだと思います。

答のない問を問いかける、それがよりリアルな現実への一歩です。


とは言うものの、答のない問いに、自分なりの答を出してみました。
それはインドに行って感じたことであり、
この本を読んでもまた同じことを感じます。

社会を変える最も有効な方法は、
まず自分自身が変わることです。
自らが世界を創造しているのですから、
自分が変われば世界が変わるはずです。

それと同様に、世界を変えていくには、
まずは日本が、日本の抱えている現状の課題を克服することです。

すべては共生しているのですから、
日本の変化は他国の変化にも通じるはずです。
特に日本は現代文明を功罪を最も顕著に体現している最先進国であり、
その日本はこれからの時代のひな形としての役割があるのですから、
日本の変化、日本が創り出そうとする新しい時代をリードする価値観は、
世界全体を大きく変化させていく力があるはずです。


この本に書かれているそれぞれの国の悲惨な現状は、
すべてその国独自の歴史や文化、社会構造と深く関わっていることであり、
ただ対外的な援助をすれば変わるというものでは決してありません。
もちろんそれもまったく無力ではありません。
私もそれに関わっています。

『他人は変えられない、変えられるのは自分だけ、
 究極的には善悪というものは存在しない、
 大切なのは相手の価値観を認めること』

普段考えているこんなことも、
他国という大きな対象物で見ると、そのことがよく理解できます。


外国に行って得られる最大の学びは、
母国である日本のことがより深く理解できるということです。

この本を読み、貧しい国は社会保障が行き届かず、
悲惨な現状があり、日本はいい国だと思うだけではなく、
日本は日本で、
これらの国とはまったく別の苛酷な現状と問題点を持っているはずです。

それに着目し、日本をより自然な姿に戻していくことが、
ひいては他国への大きな貢献につながるものと信じます。

<石井光太公式サイト【コウタイズム】>
<物乞う仏陀 未公開写真集>

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