ステレオ
ステレオとは、複数のスピーカーから独立した音を再生し、
音の空間的広がりを得るシステムです。

昔からある一般的なステレオとは、左右ふたつのチャンネルを持つもの、
人間の耳も左右にふたつあるのですから、これが最もオーソドックスな形といえるでしょう。

昭和40年代頃には、前方のふたつのチャンネルに加え、
後方左右にもふたつのチャンネルを加えた4チャンネルステレオというのが
ブームになりましたが、当時の技術的限界、日本の住宅事情等がネックとなり、
幅広く普及するには至りませんでした。
最近はDVDを迫力ある臨場感で味わえる「5.1chサラウンド」という
素晴らしいシステムが登場し、
家庭でも簡単に広大な音世界を楽しむことができるようになりました。


人間はふたつの耳をもっていますが、
この耳でどのようにして音の空間的広がりを感じでいるのでしょうか。

ポイントはふたつです。
左右の耳で聞こえる音の音量差と位相差です。

人間の耳は、耳たぶの開いている方向の音をより敏感にキャッチします。
右の方向から聞こえてくる音に対しては、左の耳よりも右の耳の方が
低音から高音まで幅広い周波数の音に対して高い感度を持っています。

もうひとつは位相差、音の波のわずかなズレです。
真正面や真後ろから聞こえてくる音は、左右の耳に同時届きますが、
音源が左右どちらかにズレている場合、
左右の耳に音が届く時間にほんのわずかな時間差が生じます。
音源が右の方向にあり、右の耳(鼓膜)よりも左の耳(鼓膜)までの距離が
20cm遠かったとすると、音速は340m/秒ですから、
時間にして1/1,700秒左の耳が遅れて音をキャッチすることになります。
これを位相(音の波)で表現すると、例えば340Hz(ヘルツ)の音の場合、
一波長が1mですので、左右の耳で1/5波長位相差が生じるということになります。

耳に届く音は、音源からストレートに届く直接音だけではありません。
左右の壁、床、天井、様々な障害物に反射された間接音もわずかな
時間差、位相差をともなって耳に届いてきます。
それらの情報を耳で捕らえ、脳で判断し、音源の方向、距離、部屋の広さ、
壁(反射物)の材質まで判断してしまうのですから
人間の聴力とはものすごい能力であると言わざる得ません。

ただし人間の耳が最も敏感にキャッチできる音は人間の声です。
生の人間の声とステレオやテレビから流れてくる人間の声とは
明確に聞き分けることができます。
逆に最も鈍感なのは電子音に対してです。
携帯電話の着信音などは、人ごみの中では自分のケイタイのものなのか人のものなのか、
どちらの方向から鳴っているのかなかなか判断するのが難しいものです。

人間の鋭敏な聴覚というものは、当然ながら人類の長い歴史において、
必要に応じて身に付いてきたものだということです。


ですから一般的な2チャンネルステレオで理想的な空間的広がりを再現しようとするならば、
この音量差と位相差がきちんと収録されたソースを、
空間再現能力のすぐれた装置で再生することが必要です。

様々な楽器の音を一本のマイクで収録し、
それをミキシングコンソールで左右のチャンネルに振り分けただけでは
二本のスピーカーの間に音が集まってしまい、本来の広い音場空間は再現できません。
これをマルチモノ(複数のモノラル)録音と言います。

家庭用のビデオカメラもずいぶんと普及していますが、
小さな本体に左右のマイクロフォンがくっつくように設置されていて、
これでは残念ながらすべての音がほとんど位相差なしで収録されてしまいます。

マイクロフォンだけ別に、という訳にはいかないでしょうから、
これはいたしかたがないですね。

ステレオ等の再生装置で最も空間再現能力を左右するのはスピーカーです。
低音から高音までをいくつかの帯域に分け、
それを複数のスピーカーユニットに分担させて再生する大型のスピーカーを
狭い部屋に押し込め間近で聴いていたのでは、音がバラバラになり、
正しい空間情報を聞き手が受け取ることはできません。

最も理想的なのは「点音源スピーカー」です。
低音から高音までをひとつのスピーカユニットが受け待ち、
そのユニットも限りなく小さいのが理想です。

ひとつのスピーカーですべての帯域を受け持つということは、
帯域を分割するためのネットワーク(回路)が不要で、
信号経路に対して直列、並列でコイルやコンデンサーが入らず、
電気的に位相の乱れを生じさせる要因がないというのもメリットです。

それを具現化したのがこのスピーカー、
オーデイオマニアの間で長岡教という言葉まで生まれるほどの信奉者を集めた
故長岡鉄男氏設計のスワンです。

長岡鉄男氏とスーパースワン

振動板の口径10cmの小さなスピーカーユニットをバックロードホーンという
ユニット後方に少しずつ広がる長い音道を持つ方式で鳴らし、
点音源の理想を貫くべく白鳥のような首長スタイルとなったスワン。

‘86年に発表されたスワンは、その後のスピーカーユニットの進歩とともに
スワンa、スーパースワンと進化していきました。
(写真はスーパースワンと長岡鉄男氏)

このスワン、私も自作したものと知り合いの家具メーカーに依頼したものと
二組持っていましたが、その素直で臨場感あふれる音、驚異的な空間再現能力は、
明らかに一般に市販されているスピーカーとは異なる世界のものでした。

シンプルに二本のマイクで録音されたものは、演奏者の動きが手に取るように分かります。
クラシックのオーケストラでは、ホールの状態が目に見えるようです。
シンセサイザーで位相を操作しているソースの中には、
音が三次元的に部屋中に充満し、圧倒的迫力で迫ってきて、
目を閉じて聴いていると、とても口径10cmの小さなスピーカーから
音が出ているとは信じられないものがあるほどです。

現在ガレージメーカーがこのスワンを原型とした
オリジナルモデルを販売しています。
きっと素晴らしい音がするものと思われます。
一度是非聴いてみたいものです。

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もうひとつステレオ再生で忘れられないのがホロフォニックスです。
ヒューゴー・ズッカレリという人が開発した立体音響再生システムで、
詳しい方式は不明ですが、人間は脳から出る脳波と
外から入ってくる音との干渉で音の方向性を捕らえるという理論の元、
ふたつのスピーカーから立体的な音場空間を作り出すものです。

オーディオ専門誌ではほとんど話題にならなかったホロフォニックスですが、
昭和の終わり頃、オカルト系の雑誌広告でたまたま目にして
デモンストレーション用のカセットテープを購入しました。

音はヘッドフォンで聴くように指示されていて、手持ちのウオークマンでその音を耳にして
本当にビックリしました。
まさに三次元的立体音響、音が頭の周りを三次元的にピンポイントで飛び回るのです。

紙袋を頭から被せられたり、ハサミで髪の毛を切られたり、
ドライヤーを当てられたり、耳元で熱い声でささやかれたり・・・、
ヘッドフォンで音を聴いているということを忘れ、
すべて超リアルに再現される音、音空間に思わず体がビクッと反応するほどです。

カセットテープという低音質のフォーマットでこれだけの音を再現できたのですから、
現在のCDだとより一層リアルな音空間を表現することができることと思われます。
しかしネットで「ホロフォニックス」と検索しても、なぜか新しい情報はほとんどありません。
素晴らしい方式だけにとても残念です。


今は視覚重視の時代から聴覚重視の時代へと移りつつあります。
また近い内に新たなる画期的な音響再生方式が生まれてくるかもしれません。
期待したいところです。



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