振動で音は変わる<2>
昨今のオーデイオの世界では、振動の制御がステレオにおける
原音再生のための重要な条件となってきています。

その振動を制御のための方法論、大きく分けてふたつのものがあります。

ひとつは振動は音を濁らす原因であるので
これを極力排除しようという考え方、これが主流です。

もうひとつはその振動を整え、理想的な振動にしようという考え方、
これは前項の貝崎流の方法です。

まずは主流の振動を極力排除する考え方について。

現在オーディオの世界では制振合金というものがちょっとしたブームになっています。
制振合金とは見た目は普通の金属なのですが、
その不安定な分子構造からゴムのように振動を吸収する性質を持っています。
この制振合金でビスやワッシャーを作り、オーディオ機器の各部に使ってみると
余分な振動がとれ、不帯音のないスッキリとした音になるという考え方です。

同様に以前からよく使われている手法に鉛の延べ板を
オーディオ機器の上に載せるという方法があります。
重たいものを上に載せ、下のものの振動を押さえ込もうという方法です。

こういった手法で振動を制御すると確かに音は変わります。
音が力強くなったり、余分な音がとれ、見通しのよいスッキリとした音になります。
しかしこの方法をやり過ぎると、余分な振動、音だけではなく、
本来持っている音楽情報まで削られてしまう危険性があります。
音はスッキリしたけれども、肝心の音楽の感動が伝わってこない、
物理特性はいいけれども殺伐としたつまらない音になってしまうのです。

これはいうなれば「振動性悪説」、振動という悪いものを極力排除しようという考え方です。

もうひとつは振動を整えるという考え方、
貝崎流、ローゼンクランツのインシュレーターの思想です。

電気製品の中にある電気素子は、電気信号(電気振動)を扱うと同時に、
微弱ながら機械的振動をするものであり、
その機械的振動を押さえ込むのではなく、最も自然な形で振動させてあげること、
これが本来持っているそのものの力を発揮させる重要な要素であるという考え方です。

振動を押さえ込む方法は材料さえあれば誰にでも簡単にできる方法ですが、
理想的な振動環境を整えるという方法は長年の経験と技術を要する高度な手法です。

しかしローゼンクランツで完璧に振動管理をされたステレオの音を聴くと、
音楽の持っている本質、喜びが聴き手の方に向かってストレートに伝わってきます。

短所をつぶすのではなく、長所を伸ばす方法。
振動というものは悪いものではなく、その振動にとって最も理想的な環境を作ってあげる、
いわば「振動性善説」です。

振動を押さえ込む鉛の延べ板を使う方法も、
振動の管理を考慮すると音が変わってくるのは面白い現象です。

鉛の延べ板

鉛の延べ板は鉛を鋳型に流し込む際に、金型の関係で、
刻印の入った面は下側になります。
しかしアンプの上に載せる場合は刻印の入った側を上にした方が見た目がいいので
大部分の方は何も考えずにそうして使っているようです。
しかしこれは生成時の方向性に合わせ、
刻印側を下向きにした方が音は伸び伸びとしてきます。

また延べ板を載せる向きも横向きにすると音が横に広がり、
前後の縦方向にすると音が前に向かってくるようになります。
これも実験してみてハッキリと耳で分かるほどの差が出ます。


振動を押さえ込む方法とそれを活かす方法、
どちらがいいか悪いかをすぐに判断することはできません。
しかしすべてのものに命、役割を認め、それを活かすという考え方はとても魅力的であり、
これからの時代に必要な考え方の大切なヒントを持っている様な気がします。



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