体幹の力 | ||||||||
凝り性の私は好きになったら徹底的、 音楽でも同じアルバム、同じ曲を何十回でも飽きずに繰り返し聴き続けます。 最近はまっているマイブームは演歌の歌姫石川さゆり、 もうここ数ヶ月ぞっこんで、CDもパソコン動画も彼女がメインの座に座りっぱなしです。 石川さゆりが過去の日本の名曲を毎年一枚ずつ、 レコード会社を三つに渡ってリリースした「二十世紀の名曲たち」。 この全十枚のアルバムを、ひとつのセットにしたこのBOXは、 私のCDコレクションの中でも至宝の存在です。
石川さゆりはこのアルバムで演歌というジャンルを越え、 美空ひばり、山口百恵、水原弘、三橋美智也、・・・ 名だたる歌手の名唱を、 けっして押しつけがましくない彼女独自のソフトな歌声で、 オリジナルを凌駕する感動で歌っています。 上手い、すごい、そして何より耳に心地いい、 何度繰り返し聴いてもまた聴きたくなってしまいます。 これは料理に例えるなら、さながら極上の京料理といったところでしょう。 それにこのアルバムは、石川さゆりの歌だけではなく、 バックの演奏も最高なのです。 全アルバムを通してプロデュースを担当している渋谷森久という方の力量なのでしょうか、 たぶん歌と演奏を一発録りしているのだと思われますが、 歌とバックの演奏のリズム、呼吸のマッチングが完璧で、 何か仕事をしながら聴いていても、 自然と体が音楽に合わせてスイングしてしまいます。 ある程度の年齢の方ならお分かりでしょうが、 いわゆるいい意味での「古き良き昭和歌謡」の匂いを体で感じることができるのです。 もちろん彼女のオリジナル曲も最高です。 今は恵まれた時代です。 YouTube には彼女の動画が千件近くアップされています。 その中でも代表曲である「天城越え」がもう最高中の最高です。 私のパソコンの My Video の中の「天城越え専用フォルダ」には、 天城越えの動画が20本以上ストックされています。 YouTube - 天城越え 石川さゆり 個人的にはどうでしょうか、 石川さゆりの天城越えは、あの美空ひばりの「悲しい酒」を 越えているのではと感じるほどです。 石川さゆりがデビューしたのが73年、もうデビューして36年です。 そして天城越えをリリースしたのが23年前の86年、 彼女の数ある天城越えの熱唱を聴いていると、 彼女の歌手としての変化がよく分かりとても興味深く感じます。 彼女が15歳でデビューした当時から私もしっかりと記憶にありますが、 地味でしたが、ひときわ歌のうまさが印象的でした。 天城越えも若い頃から今と変わらない十分な歌唱力で、 素晴らしい熱唱です。 ![]() ただ最近の歌い方と比べると、 歌や声の根本となる身体の状態がまった違っていて、 それが歌にも大きく影響を与えています。 具体的に言うならば、若い頃は身体がまだ不安定です。 というか、年齢とともに安定感を増してくる彼女の身体の状態が、 ちょっと信じられないぐらいすごいものがあるのです。 これは2000年、彼女が42歳の時の動画ですが、 歌う前、イントロの部分で腰帯の上縁に左手を置き、 気合いを入れるが如く息を吐きながら中央から外側にぐっと引き絞ります。 ![]() これは「体幹の力」と表現するのが最も適切だと思うのですが、 表面的な筋力ではなく、体内部の下腹(臍下丹田)から身体の中心部に力がみなぎり、 体表面には力が入っていなくても、 身体の安定感が若い頃とはまったく違うのが、 動画をキャプチャーした画像からでも十分に見て取れます。 ![]() もちろんこれは歌の表現力という面にもはっきりと表れています。 天城越えは狂おしいほどの女の情念を歌い上げる奥深い曲ですが、 「誰かに盗られる ぐらいなら あなたを 殺して いいですか♪」の “殺して” のところも、 若い頃のように力を込めることなく、 逆にささやくように歌うことで深い思いを表現できるのは、 まさに歌と人生のキャリアを重ねた円熟味といったところです。 この円熟味と体幹の力は、それからもさらに磨きがかかります。 この動画は07年の紅白歌合戦の時のもの、 49歳、一ヶ月後に50歳の誕生日という時期です。 この立ち姿の美しさ、 体幹がしなやかに伸びきり、体表面は完全に脱力、 体、表情に力みは一切感じられません。 武道でいうなら一分の隙もない達人の領域、 宗教的表現ならまるで菩薩の境地です。 ![]() 泰然自若とし、まったく動じない完璧な姿勢は、 さながら中国故事の木鶏を思い起こさせます。 ![]() 今の日本で彼女ほど立ち姿の美しい女性が他にいるでしょうか。 立ち姿だけではなく顔、表情も齢50を目前にして ・・・ なんと ・・・ 美しい。 (*^・^*) この完璧な立ち姿は、男ならイチローに匹敵するでしょう。 ![]() このたびネットで調べていて、 そのイチローが大リーグで二回目の打順の時に この天城越えを流していると知り、驚きました。 そのキッカケは、イチローが07年の紅白歌合戦を観て、 石川さゆりの歌う姿に感動したことがはじまりのようです。 「全然、何の気なしに(紅白を)見てたんですよ。 一人だけ――っていうと、和田アキ子さんも出てるので、言いづらいんですけど(笑)、 ちょっと際立っていたというか、力の入れ方、抜き方っていうバランスが、 ものすごい僕には鮮烈だったんですよ。 あの小さい体で、まあ、実際に見ていたわけではないので、画面からだけですけど、 ちょっとそこに興味を抱いたんですよね。びっくりしたんですよ。 すげえなと……」 やはり達人同士、引き合うものがあるのですね。 この言葉を見つけてさらにビックリしました。 それにしても、なぜ石川さゆりは ここまで完璧な身体感覚を身に付けることができたのでしょうか。 ただ “いい人生体験を積んだから” というのではないでしょう。 きっと座禅、瞑想、日本舞踊、気功、太極拳、ヨガ、呼吸法、・・・ なんらかの体を鍛練する術を用いて、 かなりの熟達の域まで達したものと思われます。 いつかその秘密を教えてもらいたいですね。 (*^・^*) v
2009.10.23 Friday |
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