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聖なるもの

この時空で最も尊いものは生命、生命こそが時空の真理を表し、そこに潜む真理を突きとめ知らしめたいという強い思いを持っています。

その生命を支え紡いでいくシステムが性であり、この性のあり方を見つめることが生命の真理を知る最大の近道であると考え、生殖システムからはじまり人間の持つ性欲や性風俗のあり方に至るまで、随分以前から性について強い関心を持って見ています。

 

そんな流れで、先日YouTubeの街録チャンネルで元AV男優山本竜二のインタビューを視て、彼の経験、語り口の面白さ、大胆な生き様に深く興味を引かれました。

元AV男優の山本竜二の姿は、普通の男性ならば何度かは画面から目にしたことがあると思います。
ユーモラスであっけらかんとしたキャラクターはとても印象深く、通常のAVだけではなく、スカトロ、SMといったマニアックな分野にも多数出演し、その他Vシネマや時代劇等幅広い経歴の持ち主です。

そんな中でも特に気になるのがマニアックな分野での活躍ですが、YouTubeでも語られているように、彼は決して特別な性嗜好の持ち主ではなく、縁あって出合った仕事の流れから、また持ち前のプラス思考的大胆さから恐れなく特殊な嗜好の世界へと入っていき、それを語る姿が実に明るく面白く、インタビュー動画のレビューも高く評価するものばかりです。

性という生命の根幹に関わる分野に大胆かつ果敢に挑んでいくその姿勢は、人生そのものにタブーなき挑戦をするということであり、そこには役者魂という言葉を超えた一人の人間としての魅力を強く感じさせます。
また特殊な話題を語っても嫌悪感を感じさせないのも、彼の持つ人間的魅力なのでしょう。

 

そんな彼が自らの生き様を綴った「男優・山本竜二」という本を十年ほど前に購入し本棚に眠らせていたのですが、動画を視たことで手に取り、あまりの面白さに一気に読んでしまいました。
ホント、この人スゴイです!

山本竜二

往年の名優嵐寛寿郎の甥であるという素晴らしい血統を持ちながらも長く京都の太秦で冷や飯を食い、希望を持って上京した東京で様々な出来事と遭遇し・・・、世の中にはいろんな社会があり、人間の趣味嗜好、経歴も多様であることに驚かされるばかりです。
この本は社会学の本として秀逸です。

 

そしてまたまたその流れで、これも二三年前にAmazon購入して放置していた「夫のちんぽが入らない」を読みました。
一度目にしたら忘れられないエキセントリックなタイトルですが、ネットでの評価が高かったので入手しました。

こんなタイトルの本の著者はさぞ破天荒な人物であろうと想像しがちですが、著者は北海道の限界集落のようなど田舎で生まれ育ち、人と交わることが苦手な内向的性格で、周りから引きずられるように経験した様々な日常の一コマを淡々と描写してる、そんな実話を元にした私小説です。

そしてその綴られている言葉が木訥ながらも実にリアリティーがあり、著者自身や周りの人たちの内面を実に上手く描き出しています。
書かれている言葉は中学生でも容易に理解できる平易なものばかりです。
けれど言葉選びが秀逸で、かつその中に彼女の生真面目さが現れ、時折洒落っ気のある表現がちりばめられていて、声を出して笑ってしまう箇所がいくつもありました。

タイトルにある夫婦間の性的問題も、そこから派生する夫婦それぞれの問題も、どこの家庭にでもある問題のひとつであるかのようにさらりと読み進めてしまうのは、彼女がひとつひとつの出来事を自らの思いで正直に見つめ、それを真摯に言葉で表現し、それもひとつの夫婦の在り方のひとつだと納得させてくれているからなのだと感じます。

彼女のその文章表現力に魅了され、次作エッセイである「ここは、おしまいの地」も買ってしまいました。
これも私小説で、彼女の巧みな筆力により、日常にはこんな味わい深いことがたくさんあるのだということに気付かされます。

彼女の文才は、地味で内向的性格であるが故、より深いところから周りを見つめることができる、また見つめざるえなかったことが大きな要因であると感じます。
これは近年のメディアにおいてマツコ・デラックスのような性的マイノリティが人気を博すようになった要因と同様で、マイノリティという存在は何らかの引け目を常に感じざるえないが故、いつも人の目を気にし、自らの存在意義を問い続けなければならず、その結果として深い洞察力や観察眼が身につくのだと思われます。

性は生であり、その表し方によって卑猥なものになればまた聖なるものにも昇華します。
また性は生命の根源であるがゆえ秘め事というハレにもなれば日常というケにもなり、人類普遍の重大テーマです。

 

この「秘めやかな蜜の味」も大胆な性描写がふんだんに散りばめられた短編集です。

秘めやかな蜜の味

これは「夫のちんぽが入らない」とは対極で、完全なる空想上の幽玄なる世界、用いられている言葉はどこで学ばれたのか、古の大和言葉による香り立つような美文です。
これを現役SM女王様が描くのですから、やはり性の世界は深遠なる世界と結びついていると思わざるえません。

七編それぞれの短編は、どれもうっとりするような趣のある言葉が並べられ、物語以前にそれを目に通すだけで心地よい異世界へと導かれます。

全編の主人公となる四十前の小粋な兵頭牧衛という男性は、さながら課長島耕作のように魅力的な女性たちと次々と逢瀬を重ね、その女性たちがみな幽玄界の住人で、彼女らとの邂逅ひとつひとつがまさに夢・幻の世界、限りなく美しい心象風景のように綴られています。

そしてその流れるような文脈の中に耽美的かつリアリティーのある性愛描写があり、そこから受ける感覚は、“それ”を目的として描かれるエロ小説とは一線を画します。

性は生と生を結ぶものであり、またそれと同時に生と死、現実界と夢幻界とにもつながりを与えるものなのかもしれません。

このような奥深い世界を極めて芸術性の高い文章で表現できる著者、SMの女王様とはどういった人物なのか、その世界の一端に触れたいと願い、これもやはり別の著書である「羊くんと踊れば」を買い、こちらは現在読書中です。

 

性というものを切り口に、無限の世界が広がっています。
それはまた生命自体が無限の可能性を秘めているということを示しているのでしょう。

明るく前向きな山本竜二氏を見ていると元気を受け取れます。
性があるから生命がある、明日があるから夢がある、のですから!!