ベストタイミング<2> |
「ベストタイミング録音」とは、 歌とバックの演奏、すべてのタイミングがきちんと揃った状態の 録音のことを指します。 ※「ベストタイミング録音」は私の造語です。m(_ _)m すべてのタイミングが揃う・・・、そんなことプロだから当たり前じゃないか、 そう思われるかもしれませんが、実はそうではないのです。 すべてのタイミングが揃うとは、ただ単にリズムが狂っていないという以上の意味があります。 現在のポピュラーミュージックのほとんどはマルチトラックレコーデイングによるものです。 バックの様々な楽器の音を別々に録音し、それを後で重ね合わせ、加工、調整、・・・ そうして作られたカラオケをバックにボーカル(歌)を吹き込むといった手法です。 すでに出来上がった演奏の音に合わせて歌うわけですから、 微妙なリズム、間合いの駆け引きなどできるわけがありません。 豪華な録音機材がなかった昔は違いました。 バックのオーケストラと歌手が同じスタジオの中、 息をひとつに合わせて真剣勝負、「一発録音」です。 間違えたところや音程がはずれたところがあっても、 その部分だけ別の音をかぶせることなどできません。 60年代の歌謡曲を聴くと、この特長がよく分かります。 歌手はバックの演奏を、バックの演奏家たちは歌手の微妙なリズムや声量の変化を とても意識しながら呼応している様子が心地よいノリとともに聴き手に伝わってくるのです。 三橋美智也、園まり、・・・私が好きな昔の歌手のCDを聴くと、 当時の歌手は、現在の歌い手たちよりもはるかに歌がうまいという事実が分かります。 それとともに、バックの演奏家たちとの真剣なメッセージのやり取りに 心躍らされます。 一発録音には、歌手と演奏家たちの熱いメッセージの交換、アンサンブルがあります。 それに対してマルチトラックレコーディングは、 どんなに豪華の音の装飾を施したとしても「超デラックスカラオケ」の世界からは 脱しえないのです。 お互いの呼吸や心臓の音まで聞きながら歌を歌い、演奏しているのではないかと思えるほど、 素晴らしい一発録音での音楽は、ひとつひとつの音が有機的に織り成し、 ベストタイミングで音が重なり合っています。 機械的なメトロノームの音をバックにして感動的な音楽は創れません。 刻一刻と微妙に変化するリズムやハーモニーの中、 お互いの有機的な「ゆらぎ」を重ね合わせ、より大きな感動の波を創り上げていくというのが アンサンブルの妙、真骨頂でしょう。 ただリズムをはずさないというのではなく、 この一瞬の「間合い」を捉えた一発録音を「ベストタイム録音」と私は考えています。 石川さゆりの「二十世紀の名曲たち(6)」からは、 この微妙な間合い、アンサンブルの妙を聴き取ることができました。 その歌が流行した当時と同じ録音方式をとっているのだと思われます。 CDの中では2曲目の「月がとっても青いから」が もっとも素晴らしいアンサンブルを楽しむことができます。 何十回聴いても胸の中がホンワカと明るくなり、抜群のノリで、 身体が自然とリズムを刻むように動いてきます。 是非一度聴いていただきたいものです。 「リアリティー」と「バーチャルリアリティー(仮想現実)」、 機械には選別できなくても、耳はたちどころにその違いを聴き分けてしまいます。 人間の聴覚は素晴らしい能力を持っています。 |